いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ぶたぶたのティータイム」矢崎存美(光文社文庫)

ふだん離れて暮らす母親を喜ばせようと、お邸のアフタヌーンティーにお呼ばれした凪子。新緑の庭に、英国風のお菓子とおいしい紅茶を運んできたのは、想像を超えた、とてもユニークな人物(?)だった――(「アフタヌーンティーは庭園で」)。
中身は中年男性、見た目はキュートな、ぶたのぬいぐるみ。おなじみ山崎ぶたぶたが、周囲に温かい気持ちを広げていくファンタジー


祝30作目!な、ぶたぶたシリーズの新作。
今回はイギリス風アフタヌーンティーを軸に、ぶたぶたさんとの出会いが語られる短編集。やっぱりぶたぶたさんは食べ物屋さんが一番だ。安心感が違う。
今回、話として好きなのは「知らないケーキ」。
男やもめで娘2人を育て、義理の両親を見取りと、苦労してきた定年間近の男性にちょっとした幸運が舞い込む話。苦労が報われる話は単純に好きだ。救われた気分になる。それと、ケーキを語るおじさん(ぶたぶたさん)と毎回新鮮に驚くおじさんの図も、なんだか可愛らしくてほっこりする。
また、シリーズ愛好者として驚いたのは「心からの」。
作品ごとで職業が違うし、基本的にぶたぶたさんとの出会いの一コマを切り取った話になるので、家族を除くと長く付き合う人物というのはほぼいない。それがこの話の主人公とは10年もの長い付き合いが語られる。話もぶたぶたさんの思い遣りの深さが感じられる話で、とても良かった。
毎度のことながら、忙しない日常の合間にホッと一息付ける、タイトルのティータイムに相応しい一冊だった。