いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「豚のレバーは加熱しろ」逆井卓馬(電撃文庫)

豚のレバーを生で食べて意識を失った、冴えないオタクの俺。異世界に転生したと思ったら、ただの豚になっていた!
豚小屋で転がる俺を助けてくれたのは、人の心を読み取れるという少女ジェス。
ブヒッ! かわいい! 豚の目線なら、スカートの裾からチラリと純白の……。
「あの、心の声が聞こえていますが……」
まずい! 欲望がだだ漏れだ!
「もしお望みでしたら、ちょっとだけなら」
え、ちょっ……!?
まるで獣のような俺の欲望も(ちょっぴり引き気味ながら)受け入れてくれる、純真な少女にお世話される生活。う~ん、豚でいるのも悪くないな?
これはそんな俺たちのブヒブヒな大冒険……のはずだったんだが、なあジェス、なんでお前、命を狙われているんだ?
第26回電撃小説大賞《金賞》受賞作!


異世界の豚に転生したオタクな青年と人の心の声が聞こえるの少女の冒険ファンタジー。何の力も持たないただの豚と、その世界で差別の対象になっている種族の少女。弱者の二人が手を取り合って苦難を乗り越えていく物語。
主人公が豚ってだけでも変化球なのにこの豚、とんでもない変態紳士豚野郎である。
基本的には紳士なのだが(オタクらしいヘタレともいう)、時々妄想と欲望を垂れ流す。読心能力のある少女との旅=地の文までヒロインに筒抜けな状態なのにも関わらずだ。それに対する純朴少女ヒロインのジェスの反応が絶妙。辱めて楽しむ「S」の時があれば、叱られる「M」な時もあり、どちらの属性の読者も楽しませてくれる贅沢仕様……なのか?
また、「たそ」とか「ンゴ」とか電子掲示板色の濃い文章なので、ラノベ読者層との相性は基本的には悪くないだろうが、好き嫌いは分かれそうな文章ではある。
と、上辺はなかなかのキワモノぶりを発揮しているが、本質は王道のボーイミーツガール。
頭脳担当の豚と行動担当のジェスが、力を合わせて困難を乗り越えていくことで信頼関係と好きという気持ちを育てていく過程が丁寧に描かれていくのが好印象。それにジャスが自然と応援したくなるくらい素直ないい子で、世界の秘密が明らかになっていくにつれ、厳しい現実を突きつけられる苦い旅路でありながら、爽やかで微笑ましい気分にさせてくれる冒険譚になってる。
それと、ちゃんと別れまでを描き切ってくれているのが良い。一期一会のボーイミーツガールを十全に楽しむには、別れは重要な一要素だと思うので。それだけにエピローグにはやや蛇足感があるが、続刊への繋ぎを作るためには仕方がないか。
自分の色を出しつつ芯の部分では王道を書ききった良作ファンタジー。金賞に違わぬ完成度で面白かった。

ただ、作者にこれだけは言わなければならない。
「豚はレバー以外もすべて加熱しろ」