いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「オーバーライト ――ブリストルのゴースト」池田明季哉(電撃文庫)

イギリスのブリストルに留学中の大学生ヨシは、バイト先の店頭で“落書き”を発見する。それは、グラフィティと呼ばれる書き手(ライター)の意図が込められたアートの一種だった。
美人だけど常に気怠げ、何故か絵には詳しい先輩のブーディシアと共に落書きの犯人探しに乗り出すが――
「……ブー? ずっと探していたのよ」
「ララか。だから会いたくなかったんだ!」
「えーと、つまりブーさんもライター」
ブーディシアも、かつて〈ブリストルのゴースト〉と呼ばれるグラフィティの天才ライターだったのである。
グラフィティを競い合った少女ララや仲間たちと、グラフィティの聖地を脅かす巨大な陰謀に立ち向かう挫折と再生を描いた感動の物語!
第26回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》受賞作。


イギリス西部の街・ブリストルを舞台にグラフィティ(所謂ストリートアート)に情熱を傾ける若者たちを、音楽で挫折して留学してきた日本人・ヨシの視点で描く、青春ストーリー。

これはロックだ。
ラノベなのに異能も魔法もないばかりか、壁にスプレーで絵を描くほとんどの都市で犯罪になる行為がメインテーマ。実在の街が舞台で、しかも歴史になるにはまだ早いごく最近の事件まで取り入れたストーリーで、フィクションながらドキュメンタリー要素がある。そんなラノベとしては色々な意味で攻めた内容。これを電撃文庫で出すか。
そこで繰り広げられる人間ドラマが熱い。
ジャンルは違うが芸術の分野で一度は挫折したヨシとブーディシアが、お互いに刺激し合って立ち直っていく様子。そこから生まれる確かな友情と見え隠れする愛情。グラフィティに懸ける本気と生き様を見せてくれる数名の若者たち。想いと想いのぶつかり合いが熱くて、青春濃度が濃くて当てられてしまいそう。
また、ブリストルの街の雰囲気を伝える為の文化と歴史の説明やちょっとした観光案内があって知識欲を満たしてくれたり、中盤には絵柄やインクから犯人を探るミステリーパートありと、いろいろな方面で楽しませてくれるにくい一冊になっている。
とても面白かった。個人的には今年の電撃小説大賞は大賞作と本作の二強。