いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「名探偵ぶたぶた」矢崎存美(光文社文庫)

日常の中の、小さな謎。心に引っかかった、昔の記憶。失くしてしまったものの行方。胸に秘めた、誰にも言えない秘密。そんな謎や秘密を抱えた五人が出会うのは、なんとも「謎すぎる」ぶたのぬいぐるみ、山崎ぶたぶた。小さくてピンク色で、かわいいけど、実は名探偵って、本当?――本当なのだ。悩みを解決するヒントをくれるんだって。心温まる謎解き、5編を収録。


今回のぶたぶたさんは名探偵!
名…探偵……? 名探偵の定義は人それぞれってことですね。わかりました。
そんなことより今回は、久々の“その後のぶたぶた”。もう一度あの職業のぶたぶたさんが楽しめたり、ある話のその後が知れたりする後日談的エピソード。
その中でも嬉しかったのが、シリーズの中でも行ってみたい店上位に入る文壇カフェが再登場する一話目の「悪魔の叫び声」。ぶたぶたさんと作家のやり取りを絶品の具が挟まったコッペパンを齧りながらひっそりと聞きたい。
全五話中唯一、名探偵の名に相応しかったのは三話目の「レモンパイの夏」。しかし、この話はぶたぶたとエゴサーチという脳内でまるで噛み合わない単語の並びと、ぶたぶたの世界にもコロナウイルスが侵入した衝撃の方が大きい。
話として好きなのは二話目の「置き去りの子供」。子供の頃冒険したホテル内を大人になってから巡る、ワクワク感と寂しさが同居する探索が良かった。子供の頃の心の引っかかりが晴らされるラストも。
そんなわけで、名探偵というタイトルでも大きな事件が起こることなく ほっこりさせてくれるいつものぶたぶたさんだった。