いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「むすぶと本。 七冊の『神曲』が断罪する七人のダンテ」野村美月(KADOKAWA)

居場所をなくした少女は図書室で出会った黄金に輝く本に出会った。それは、地獄へ続く門だった――
中学生の清良は図書室登校をしている。他人の大声や暴力的な言葉が怖くて、教室に入れなくなってしまったのだ。けれど静謐で穏やかだった図書室も最近すこしおかしい。生徒の集まるネット掲示板に不穏な噂話が書き込まれ続けているのだ。特に“ダンテ”の発言は過激で、皆がその話をするようになっていた。そんなある日、清良は同じ図書室登校だという眼鏡の少年と出会う。しかも彼は本と話せると言い、黄金の『神曲』を紹介してくれるのだけれど――。


『むすぶと本。』単行本二冊目。本の声が聞こえるむすぶ少年、今回の調査先は中学校。
中学の図書館にある金色に輝く豪華なダンテの『神曲』の挿画集。その『神曲』に魅せられ“罹患”した女子生徒たちが、七つの大罪を犯していく物語。
……と、思っていたのだが、この着地点は予想外。いくつかの話で問題解決後の生徒の反応が微妙に噛み合っていないのはそういうことか。これはやられた。これは確かにビブリオミステリーだ。まあ一番の謎は、3話目から居座る無口物書き少女だった気もするが。あの濃いキャラが最後に正体は明かしただけで終わりなんてあるかな? 次の話に出てきたりするかも。
それはさておき、今回の『むすぶと本。』は、閉店する書店の話で実に現実的だった『さいごの本やさん』と打って変わって、どこか幻想的な雰囲気を出しつつ、優越感、怒り、妬みなど、誰でも持っている負の感情を煮詰めて凝縮したような、狂気が濃く出たサスペンスホラーのテイスト。そこに他人の悪意に人一倍敏感な清良の感受性と、邪気のないむすぶとの対比、学校の裏サイトのどす黒さで狂気や怖さが増していて、時に飲まれるような感覚になる。度々重い愛憎劇が繰り広げられていた『文学少女シリーズ』の野村先生らしい作品と言える。
それにつけても狂気をはらんだ中学生女子に普通に話しかけるむすぶ君のメンタルの強さよ。自分が奇異の目で見られることを自覚してたのは意外だったけど、特に気にしてないのが彼らしい。
『さいごの本やさん』が優しい気持ちになれる一冊だったのに対して、本作は美しいけど怖い、そんな感想を抱く一冊だった。扱う作品やテーマによって全く違う色を見せる懐の深いシリーズだ。