スーパーに勤める聖乃は、一人で過ごすお昼休憩を味気なく思っていた。そんな中、思いがけないお弁当を持った「山崎ぶたぶた」という新人が現れ、聖乃の毎日が変わり始める――(「ぶたぶたのお弁当」)。
仕事も勉強もお悩みも、ひと休みできる「お昼」の時間。さりげなくも大切な時間を、お店や職場やお家で、不思議なぬいぐるみと過ごした人々の、七通りのランチタイム。
今回のぶたぶたさんは、コロナ禍で自分の店を休業せざるを得なかったぶたぶたさんが、アルバイト的に別の職に就いたり、誰かの手助けをしたりするお話。短めの話もあって、いつもよりい多い全七話。
シリーズものの小説では珍しくしっかりと「コロナ禍」を扱った物語ではあるが、そこはぶたぶたさん。ランチタイムというタイトル通り、食がメインの話が大半。
そんな中で、個人的に大ヒットだったのが二話目の『ぶたにくざんまい』。
ぶたぶたさんがぶたにくざんまい(店名)で豚肉を食らうという笑える字面と想像するとシュールな絵面がまず面白く、それに加えてこの話の主人公のぶたぶた描写が濃いしテンションが高い。しかも、その濃さとテンションのまま豚の唐揚げレビューに入っていくので、飯テロ小説としても強い。豚肉の油の匂いと醤油の香ばしい匂いが漂ってきそうだ。
さらにこの話、“ちょっといい話”なのがまた良い。近くに良い飯屋が出来た。どうやら苦しかったらしい店員さんが笑っている。そんなささやかな幸せが感じられる。参っている時だったり人生の岐路だったり、その人の人生において重要な局面でぶたぶたさんに出会う話が多い中で、このさりげなさが逆に心に響いた。
後は、久々登場の娘たちの存在。かなり久しぶりにぶたぶたさんの父親の顔が読めて嬉しい。
最後に再開したぶたぶたさんのお店のように、世の中が少しずつでも正常に戻ってくれることを願うばかり。