いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「美少女とぶらり旅」青季ふゆ(富士見ファンタジア文庫)

忙しない日常から逃れて旅がしたい! そんな望みを、学年一の美少女と叶えられたら? 東京に住む高校生、高橋翔は窮屈な日常に嫌気がさして旅に出ることを決意。駅のホームに着くと同級生、七瀬涼帆の姿があった。思い詰めた様子の彼女を見て、翔は「俺と一緒に旅に出よう!」と誘って――。
最初は不信感たっぷりだった七瀬も、いつもの鉄仮面を脱いで足湯にほっこりしたり、ご当地グルメに舌鼓を打ったりと満喫し始める。「べ、べつに楽しんでなんかないんだから!」「私、夕陽が好きだったみたい」「ありがとう、私を旅に連れ出してくれて」
ワケありクーデレ美少女と紡ぐ、解放感120%の旅ラブコメ!


家出を決意した少年が駅でクラスメイトで孤高の女子の自殺を止めたことから始まる、家出少年・高橋と自殺願望少女・七瀬の現実からの逃避行。
もっと軽い話を想像していたので、初めこそシリアスなプロローグとキャラクターの重い背景に戸惑ったが、その先はプロローグに似合わず想像通り?に、『ぶらり旅』の名に相応しい旅行記になっていた。
ご当地グルメレポートはもちろん、景色や観光地の率直な感想あり、旅らしい一期一会の出会いありで、旅行の醍醐味が味わえる。初めローテンションで文句たらたらな七瀬が、次第に旅を楽しんでいく様子が旅行の楽しさをより感じさせてくれる。静岡県民としては馴染み深い土地ばかりだったのもちょっと嬉しい。
また、その旅の中で高橋と七瀬が、疎遠なクラスメイトから友達へ、友達から……と、エピソードを重ねて段階を踏んで仲良くなっていく過程に“青春”が感じられるのが良い。時折入るピンクな思考や、二人の抱える問題が(片方は重すぎる気はするが)思春期らしいことと合わせて、高校生の等身大の物語という感じが強くする。
金策周りやラスト前の道程など、どうかと思うところはあるけれど、旅行の楽しさと恋の始まりが同時に味わえる作品で面白かった。育まれた感情が爆発する感動のラストシーンで読後感もとても良い。
『美少女と』の青春感と『ぶらり旅』の旅行の醍醐味、両方がしっかりと感じられる良作。次巻が楽しみ。