いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「15秒のターン」紅玉いづき(メディアワークス文庫)

「梶くんとは別れようと思う」学園祭の真っ最中、別れを告げようとしている橘ほたると、呼び出された梶くん。彼女と彼の視点が交差する恋の最後の15秒(「15秒のターン」)。
ソシャゲという名の虚無にお金も時間も全てを投じた、チョコとあめめ。1LDKアパートで築いた女二人の確かな絆(「戦場にも朝が来る」)。
大切なものを諦めて手放しそうになる時、自分史上最高の「ターン」を決める彼女達の鮮烈で切実な3編と、書き下ろし「この列車は楽園ゆき」「15年目の遠回り」2編収録。


少女が主人公の5編の短編集。
女性作家だからこそ書ける、年頃の少女が持つ制御不能な激しい感情を描いた瑞々しくも尖った作品。
理屈や理性ではベストアンサーが解っているのに、本能がそちらに向いてくれない。感情が自分では制御できていない少女の危うさと、その突飛な行動がもたらす結果の先の読めなさに、ずっとドキドキハラハラさせられっぱなしの読書時間だった。
また、尖っているがゆえに、話によって合う合わないが差が激しかったのも一つの特徴。各話の主人公によって感情の発露のし方と沸点がかなり違うので、同じ人が書いているとは思えないほど。その引き出しの多さには感服。
ちなみに、好きなのは『15秒のターン』と『この列車は楽園ゆき』。特に微妙で絶妙な少年少女の距離感がたまらない『この列車は楽園ゆき』が良かった。逆に全く合わなかったのが『戦場にも朝が来る』。再読の為、落ち着いて読めてしまって感情は揺さぶられなかった『2Bの黒髪』と、箸休め的な気楽な話な『15年目の遠回り』はその中間。但し、『15年目の遠回り』のオチはズルい(誉め言葉)
瑞々しさと激しさと危うさと。“少女小説”を堪能できる一冊。