いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「竜の姫ブリュンヒルド」東崎惟子(電撃文庫)

人々は彼女をこう呼んだ。時に蔑み、時に畏れながら、あれは「竜の姫」と。
帝国軍の大砲が竜の胸を貫く、そのおよそ700年前―-邪竜に脅かされる小国は、神竜と契約を結び、その庇護の下に繁栄していた。
国で唯一、竜の言葉を解する「竜の巫女」の家に生まれた娘ブリュンヒルドは、母やその母と同じく神竜に仕えた。 竜の神殿を掃き清め、その御言葉を聞き、そして感謝の貢物を捧げる――月に、七人。
第28回電撃小説大賞《銀賞》受賞の本格ファンタジー、第二部堂々開幕!


『竜殺しブリュンヒルド』から遡ること700年前、神竜に庇護される国で繰り広げられる群像劇。
弱き者、傷ついた者を助けずにはいられない正義の人・竜の巫女ブリュンヒルド。助けられ、元暗部で壊れた心を抱え愛することを知らぬまま、助けられたブリュンヒルドに従事するファーヴニル。ブリュンヒルドを愛し優しいが心の弱い王子シグルズ。優しい王子に絶対の忠誠を誓う騎士スヴェン。四人の想いがすれ違い続ける悲しい愛の物語。
それぞれに誰かを想い、それぞれに自分の信念を貫き通す。4人が4人とも真っ直ぐな人柄で、強い想いを持っているゆえに噛み合わず悲劇へと進んでしまう、なんとも切ない物語だった。しかも、最期に少しだけ想いが通じるのがズルい。そのちょっとの救いが、切なさを倍増させながらも悲しいだけの物語でなかった安堵感をくれる。
と、“人間四人”だけを切り取れば、美しい物語だったと言えるのだけど、前作と同じ世界観でこの竜の扱いは……
子供じみた妄執と獣じみた振る舞い、性質の悪い悪役としての役割しかなかった神竜の扱いが納得いかない。
時系列では700年も前の話ではあることは頭では分かっているのだが、同じ竜にこんな振る舞いをされると『竜殺しのブリュンヒルド』の父であり竜である彼の想いが踏みにじられた気がして、少なくない憤りを感じている。
単体で見れば悪くなかったと思う。でも前作があっての本作なので、申し訳ないが好きにはなれない。