いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「瀬戸内海の見える一軒家 庭と神様、しっぽ付き」支倉凍砂(中公文庫)

東京でデザイナーになる夢が破れ、祖母の遺した家に引っ越してきた加乃。そこへ転がり込んできたのは、伏見から家出してきた稲荷狐だった。新天地での一人と一匹の共同生活が始まったが、土地の龍神の少女に、ここ愛媛県松山市は昔から狸が支配する地、稲荷狐なんて見つかったら命はないと言われてしまい……!?


会社の合併でリストラされ、愛媛県松山市の北にある亡くなった祖父母の家の住むことになった加乃。新天地で心機一転と生活を始めた彼女の家に転がり込んできたのは……? から始まるオカルト日常ハートフルストーリー。
デザイナーの仕事をしたいけど、やっていたのはデザイン会社の事務職な求職中の女性・加乃。狸が強い四国の地に家出してきてしまった伏見稲荷の狐・佐助。歳が若いばかりに侮られる龍神様・龍姫。考えが古い両親に反発中のアイドル顔負けの美狸・千代。立場も境遇も種族も違うけれど、それぞれに今が大変な四人が、助け合いながら生活基盤を固めて今を改善していくいい話。
……うん、いい話だったんだ。そこだけ切り取れば。
何故こうも「狸の世界も世知辛い」に偏ってしまったのか。
進むIT化について行けない老人とお役所。高齢化に伴い、老人の数の暴力で新しいものを取り入れない死んでいる民主主義。近場の同業だけでなく遠くの大手まで敵視して権力争いに明け暮れる役に立たない老害爺共、などなど。
現代日本が抱える問題をそのまま狸社会に持ち込んで、老害とお役所の怠慢への憤慨をこんこんと語られて、話が進むほど気分がどんより沈んでいく。途中、クラウドファンディングを始めた時は、お役所が関わると途端に仕事が膨れ上がる様子のあまりにリアルな描写に「いったい何を読まされているんだろう」という気分になった。
もう内容の半分は『お役所の怠慢と自分勝手な老人たち』とでも銘打って親書で出せばよかったんじゃないですかね? 少なくとも自分はエンタメ小説でわざわざ読みたいテーマではない。
わんぱく小僧だけど気のいい少年と、健気で生真面目でちょっとおませな少女と、それを何も否定しないで見守る女性。三人の関係性はずっと読んでいられそうなくらい良かったんだけどなあ。