いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「六人の嘘つきな大学生」浅倉秋成(角川文庫)

IT企業「スピラリンクス」の最終選考に残った波多野祥吾は、他の五人の学生とともに一ヵ月で最高のチームを作り上げうという課題に挑むことに。うまくいけば六人全員に内定が出るはずが、突如「六人の中から内定者を一人選ぶ」ことに最終課題が変更される。内定を賭けた議論が進む中、発見された六通の封筒。そこには「●●は人殺し」だという告発文が入っていた――
六人の「嘘」は何か。伏線の狙撃手が仕掛ける究極の心理戦。


大手IT企業の最終選考を舞台にしたミステリ。就職試験本番を含めた大学生時と、参加者の一人の病死によって再度真相に迫ることになる八年後の二部構成で物語は進む。
100%善の人もいないし100%悪の人もいない。そんなことは百も承知でも、善いか悪いか好きか嫌いかで他人を判断し区別してしまうのが人の性。そこを的確についてミステリに仕上げている傑作。人の印象とは表現の仕方によってこんなにも簡単に180度変わってしまうのかと感心しきりだった。
ミステリ読みとしては初めから全員を疑って、基本的には悪だと思って読み始めているので、裏の顔にはそこまでの驚きはなかったが、それがもう一回覆る終盤は驚きと清々しさの両方が合って、最高の読後感を味わえた。印象操作の上手さとある種の性格の悪さが実にミステリ。
あと、苦笑と共に読んでいたのが、文章のあちこちから滲み出る日本の就活のシステムに関してのヘイト。作者は89年生まれか、相当苦労したんだろうなあ……その10年前はもっとしんどかったけどな!
最後にもう一つ。
フィクションなんでそこを突っ込んでも仕方がないのだが、こんな採用方法を採る会社には絶対に行きたくない! 人が悪いにも程があるw