いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「レーエンデ国物語 月と太陽」多崎礼(講談社)

名家の少年・ルチアーノは屋敷を何者かに襲撃され、レーエンデ東部の村にたどり着く。そこで怪力無双の少女・テッサと出会った。
藁葺き屋根の村景や活気あふれる炭鉱、色とりどりの収穫祭に触れ、ルチアーノは身分を捨てて、ここで生きることを決める。しかし、その生活は長く続かなかった。村の危機を救うため、テッサは戦場に出ることを決める。ルチアーノと結婚の約束を残して――。
封鎖された古代樹の森、孤島城に住む法皇、変わりゆく世界。あの日の決断が国の運命を変えたことを、二人はまだ知らない。


しんどかった。二度挫折して他の本を読み始めたくらい。
冒頭の一文「革命の話をしよう」に相応しい内容だった。
強者に理不尽に虐げられているから革命を起こそうと思うのだから、強者の悪行なんて上から下まで掃いて捨てるほどある当然の事実。数でも質でも上回っているから強者なのであって、弱者が一矢報いるだけでも泥水を啜らなければならないという当然の戦力差。いくら英雄が立ち上がろう声を上げても恐怖で状況で立ち上がれない者は沢山いる。同じ境遇の弱者だからと言って一枚岩になれるわけではないという当然の事実。その“当然”は歴史では表現されない。これはファンタジーだけど歴史で語られる革命は綺麗ごとだけだと、革命の現実をまざまざと見せつけてくるような、そんな物語だった。
それに追い打ちをかけて来るのが1巻の足跡。
この2巻は1巻から百年余り後の物語。1巻の登場人物たちの残した痕跡が見えるのは、本来読者にはちょっと嬉しい出来事のはず。しかしこの物語では、1巻の主人公たちの大願は成っていないばかりか踏みにじられている現状に、苦みや胸の痛みがさらに強くなる。
また、1巻で魅かれた厳しくも神秘的で美しいレーエンデの森の描写が影をひそめてしまったのが悲しい。その様子を垣間見えるのが表紙と裏表紙だけという。そこに生きる人たちが森の美しさに魅了される余裕も恐怖する余裕もなのだから、仕方がないのかもしれないが。
そんな理不尽と欲まみれの不正が蔓延る救いのない世の中で、気高く生きた若者たちは確かに輝いていたのだが……うわぁ、最後までこんなんか。もう泣くに泣けないわ。救いはどこ?
人の悪意と弱さによって、志の高い若者が磨り潰されていくのを、運よく生き残っても心がどす黒く染まっていくのを見ていることしかできない、とにかく胸が痛い物語だった。
これは次を読むのに勇気が要るなあ。