いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「シャーロック・ホームズの凱旋」森見登美彦(中央公論新社)

シャーロック・ホームズの凱旋 (単行本)

「天から与えられた才能はどこへ消えた?」

舞台はヴィクトリア朝京都。
洛中洛外に名を轟かせた名探偵ホームズが……まさかの大スランプ!?

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この手記は脱出不可能の迷宮と化した舞台裏からの報告書である。
いつの間にか迷いこんだその舞台裏において、私たちはかつて経験したことのない「非探偵小説的な冒険」を強いられることになったわけだが、世の人々がその冒険について知ることはなかった。スランプに陥ってからというもの、シャーロック・ホームズは世間的には死んだも同然であり、それはこの私、ジョン・H・ワトソンにしても同様だったからである。
シャーロック・ホームズの沈黙は、ジョン・H・ワトソンの沈黙でもあった。
-----(本文より)

謎が謎を呼ぶ痛快無比な森見劇場、ついに開幕!


ヴィクトリア朝京都? 京都警視庁のルビがスコットランドヤード? なんだそれw
もしシャーロック・ホームズがロンドンではなく京都の街の名探偵だったなら、という作者の妄想が爆発している、シャーロック・ホームズin森見ワールドな一冊。スランプに陥ったシャーロック・ホームズを何とか立ち直らせようとワトソンが奮闘する物語。

世の中には様々なシャーロック・ホームズを題材にした作品があるけれど(最近もテレビでド派手なドンパチばかりしているホームズ作品やってた)、和の象徴・京都を舞台にして合うのか?大丈夫?と半信半疑で読み始めたのだが、これが驚くほどマッチしていた。
その最たる理由が主人公。自尊心が強く根性が捻くれていて、怠惰で動かないくせに弁ばかりが立つ京都の阿呆な大学生という森見作品の一般的主人公と、スランプに陥り働かなくなったシャーロック・ホームズのメンタリティーが完全に一致。おかげでなんの違和感もなくこの奇天烈な世界に入り込むことが出来た。
そして主人公の偏屈さと話の馬鹿馬鹿しさに笑っていると、いつの間にか不思議な世界に引きずりこまれていくのも森見作品の醍醐味。
今作はSF・ファンタジーではなくおどろおどろしいホラーチックな世界観の方の森見さん。
京都とロンドン、どちらが作中の現実でどちらが作中作なのか、今まで立っていた足元が急に覚束なくなる不安感。そして煙に巻かれたような何とも言えない読後感。久しぶりでもその独特な世界観は健在だった。
阿呆な笑いと怖いもの見たさな不可思議な異世界、もりみーファンとしては森見ワールドを余すことなく堪能できる一冊だった。満足。