いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「キッチンつれづれ」アミの会(光文社文庫)

キッチンつれづれ (光文社文庫 あ 61-3)

八人の作家が描き出す、家族や大事な人との悲喜こもごも。「対面式」(福田和代)、「わたしの家には包丁がない」(新津きよみ)、「お姉ちゃんの実験室」(永嶋恵美)、男の料理教室で事件を推理「春巻きとふろふき大根」(大崎梢)、「離れ」(松村比呂美)、「姉のジャム」(近藤史恵)、「限界キッチン」(福澤徹三)、「黄色いワンピース」(矢崎存美)所収。


8人の作家が紡ぐキッチンをテーマにしたアンソロジー
料理が苦手なのに新居に立派なキッチンが出来てしまった主婦だったり、亡き母や祖母の思い出の料理だったり、お店のキッチンの話ではなくご家庭のキッチン、要するに「台所」にまつわる徒然話。
家族内の不和やすれ違いやご近所付き合いや近隣の地域に起こった事件などどれも身近な話題で、基本的には円満で終わるで、読み終わるとほっこり/しみじみした気分になれるアンソロジーになっている……一部を除いて。
イチオシは一話目の『対面式』。台所の話とあって料理の思い出が語られる話が多い中、台所から見える景色がメインという着眼点の面白さと、お迎えの家人の妙な行動から抱く疑惑と膨らんでしまう妄想からのハートフルなオチという、綺麗なストーリーラインが良い。
料理の思い出を語る話の中では『お姉ちゃんの実験室』が良かった。主人公である妹の勘違いの思い込みを含めて、三世代の家族の優しさがあふれた話になっていてほっこりする。それにお姉ちゃんのこだわりがちょっと変わっているのも面白い。
と、基本的にはいい話なアンソロジーなのだけど、キッチンどこいった?な上に後味の極めて悪い毛色の違う話が二つほどある。
嫁いだ先にいびり殺された姉の話と、就職活動に失敗した上に特殊詐欺に引っ掛かった話をこのラインナップに並べるのは少々悪趣味だと思うんだ。現実の世知辛さや厳しさしか感じない話はこのアンソロジーでは読みたくなかった。
人情味溢れる話あり、日常ミステリあり、後味激苦の話ありのバラエティーに富んだアンソロジーだった。