いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「レーエンデ国物語 夜明け前」多崎礼(講談社)

レーエンデ国物語 夜明け前

四大名家の嫡男・レオナルドは佳き少年だった。生まれよく心根よく聡明な彼は旧市街の夏祭りに繰り出し、街の熱気のなか劇場の少女と出会う。――そして、真実を知り、一族が有する銀夢草の畑を焼き払った。権力が生む欺瞞に失望した彼の前に現れたのは、片脚を無くした異母妹・ルクレツィアだった。孤島城におわす不死の御子、一面に咲き誇る銀夢草、弾を込められた長銃。夜明け前が一番暗い、だがそれは希望へと繋がる。
兄妹は互いを愛していた。きっと、最期のときまで。


長きにわたり虐げられてきた民族の革命が実を結び始める、本格ファンタジー第四弾。
表向きは現法皇帝の息子レオナルドがレーエンデの解放を目指すレオナルドが主役の革命の物語だが、実質の主人公は彼の異母妹・ルクレツィアだった。これはたった14歳の少女が愛する人のために自分を殺し悪魔になる、悲しくもおぞましい物語。
法皇帝の父には殺されかけ、傲慢な父に略奪された母にとっては自分の存在は呪いである姫君・ルクレツィア。そんな愛を知らない少女が、逃げた先の義理の母と異母兄との生活の中で、家族の愛と心安らぐ自分の居場所、そして最愛の人を見つける。
・・・という物語序盤の幸せなひと時が、その後の悲哀と残虐を生む。その物語の構造がとても上手い。ゆえにひどく残酷だ。
「レーエンデに自由を」これが愛する異母兄の夢だったばかりに、彼の夢を実現するため歪み切ってしまったルクレツィアの愛情と運命に胸が締め付けられる。
彼女が取る革命の手札が実に合理的なのが、痛さに拍車をかける。
愚直だが光り輝くカリスマを持つ異母兄。見目は美しいが愚鈍で卑屈な従兄。身も心も壊れた現法皇帝の父。有能、無能、俗物と多種多様な貴族たち。目的を達成するために、持ち得るカード(男共)を如何に上手く使うか。10代の少女が時に冷徹に時に自分の身を切りながら、レオナルドの夢のためにレーエンデ人が立ち上がるために悪の政治をやりきる姿が、痛く切なく恐ろしい。
なのに・・・
他民族の10代の少女にここまで焚きつけられて、次の物語でやっと立ち上がるのかレーエンデ人。ユリアが愛したレーエンデの森を、彼女が育んだ神の御子を助けてほしいという気持ちは強いが、この腐りきったレーエンデ人が自由になるのは、ちょっと複雑な気分になる。
今回は4冊目にして初めて、声を上げたのは虐げられているレーエンデ人ではなく、支配階級のイジョルニ人だった。
度を越した差別がおかしいと思い声を上げるイジョルニ人が出てきたことを嬉しく思う反面、長きにわたる支配で弱者であることが慣れてしまったレーエンデ人に悲しみと憤りを覚える。これも革命に至る道の真実の一つか。
失敗に終わった二巻に続き、革命とはかくも苦しいものかと現実をまざまざと見せつける苦しい物語だった。テッサ(二巻主人公)にしろルクレツィア(本巻主人公)にしろ、この物語は女性に厳しい。時代背景もあるのだろうけど。
次回完結編。美しいレーエンデの森の復活と共に、トリスタンやテッサのような誇り高きレーエンデ人の登場に期待したい。