いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「魔弾の王と凍漣の雪姫3」川口士(集英社ダッシュエックス文庫)

ライトメリッツを襲ったアスヴァール軍を撃退し、エリオット王子を見事に捕らえたティグルたち。ジスタート王国はエリオットを利用して、アスヴァールの内乱に介入することを試みる。遠征軍の指揮官に任命されたのはミラとソフィーの二人だったが、その人選にはいくつもの思惑があった。
同じころ、アスヴァールの王女ギネヴィアは、自らの野心をかなえるためにブリューヌ王国を訪れていた。ブリューヌは黒騎士の異名を持つロランに、あることを命じる。
野心家たちが入り乱れ、混迷渦巻くアスヴァール島で、ティグルとミラの前に新たな強敵が立ちはだかる。戦いの先で二人は何をつかむのか――。


捕えた第二王子を使ってアスヴァール介入を目論むジスタート王の命で、船で一路アスヴァールへ! なシリーズ第3巻。アスヴァール編前編といったところ。
前編とあってか現地に着くまでの前半は平穏そのもの。おかげでティグルとミラのイチャイチャタイム増量で、バカップル具合に中てられる。ちょっとちゅっちゅしすぎじゃないですかね、この子たち(←おいおっさん しかし何故、ワンピース姿のミラの挿絵がないのか。ティグルの食事シーンなんて要らんだろう。
さて、本題のアスヴァール編は、
2巻は囚われのエレンと魔物との死闘の印象が強くて、アスヴァール軍の侵攻なんてあったっけ? エリオットって誰?って状態だったが、特に問題はなかったかな。今回も最期まで印象のないまま退場していったし。妹を表舞台に立たせる舞台装置だったような……不憫な。
逆にその妹、アスヴァールの王女ギネヴィアは麗しいキャラデザにお転婆な性格、竜具以外の伝説の武器を持つ目立つ姫君で、ブリューヌとジスタート以外の国は記号的に、もし戦う時は野蛮に描かれることがほとんどだった前シリーズから考えると、敵国の王女が戦姫級の扱いなのは珍しい。今シリーズは本気で舞台を世界規模にするんだと実感した。
そして、女性ということはもちろんハーレム入りなんだろうなあ。ミラとは主に紅茶の好みでそりが合わなそうだが、どういう立ち位置になるのかが見物。
魔物を一体討伐したところで後編へ。各陣営に魔物の影がある中、アスヴァールの内戦がどう転ぶのか次回が楽しみ。

「クラスメイトが使い魔になりまして」鶴城東(ガガガ文庫)

クラスの美少女を侍らせてみたい。誰もが一度くらいは考えるんじゃなかろうか。でもまあ、正直オススメしない。落ちこぼれ魔術師の俺、芦屋想太には藤原千影という使い魔がいる。彼女は魔術師の名門出身で、ついでに誰もが憧れる学年一の美少女だ。え、羨ましい?? まじか、じゃあ譲ってやるよ。まず、こいつはご主人様に求める理想が高い。負けん気が強く、中々反抗的で、絶望的に貧乳だ。それでもいいならぜひ引き取って……あ、うそ! 許して、藤原さ―――
この物語は主従関係からはじまる、ふたりの恋(?)のヒストリー……らしい。

第13回小学館ライトノベル大賞〈ガガガ賞&審査員特別賞〉受賞作


魔術師学校の落ちこぼれが昇級テスト中の事故に巻き込まれ、なぜかクラス一の才女が使い魔になってしまう学園異能ブコメディ。

新人賞とは思えない完成度の高さ。
異能設定(主に召喚術周り)をラブコメ要素に転換するのは上手いし、東西の派閥争いや学内の人間関係などファンタジー要素以外もしっかりしていて人間ドラマとしても読ませてくる。文章にはクセがなく、読みやすくて普通に面白いんだが。これホントに新人賞?
ただ、2つ気になることが。
一つは主人公の設定が作者にとって都合が良すぎること。
その設定で話が面白くなるなら構わないのだが、自分の過去に関わることだけ覚えていられない呪いというのは流石に……。そもそもヒロインたちの語りで主人公が元々どういう人物かほとんど言っちゃってるようなものなのに、隠す必要があるのだろうか。ヒロインたちが最初から主人公に惚れている理由がはっきりしていないのは、ラブコメとしてデメリットなんだけど。
もう一つはメインヒロインにこれといった特徴がないこと。
ヒロインになりえる女子が5人も出てくるのだが、可愛さは旭ちゃんの圧勝で、親密度なら幼馴染、女性的魅力なら召喚魔人か旭、悲劇のヒロイン度は会長や召喚魔人の方が上。メインヒロインはどこをとっても中の下。人気が出たヒロインに挿げ替えられる設定でもないしなあ。
……あ、苦言の方が多くなってる(^^; 申し訳ない。
普通に面白いですよ(説得力ゼロ)。旭ちゃんがかわいいです(マジで)

「のけもの王子とバケモノ姫」平尾隆之(富士見ファンタジア文庫)

長大な壁で外界を拒絶した人間の国イエール。不治の感染病にかかった第三王子シュウは、壁の外に追放されてしまう。そこは異形の民モール族が生きる荒れ果てた大地……未来に絶望するシュウ。そんな彼に手を差し伸べたのは、モール族でも異端の美しさを持つ王女ミサキで――「ひとつだけあるわ。お前の居場所になるかも知れないところが」
新天地で出会う彼らの文化や生態にシュウは驚き、魅了され、いつしか人間とモール族が共に生きることこそが希望だと気づき!? ふたつの種族の間に横たわる大きな『壁』に、それぞれの異端のふたりが立ち向かう、王道冒険ファンタジー

原因不明の奇病に罹り国外へ追放された人間の王子と、人間に近い容姿の所為で厭われている亜人の国の王女のボーイミーツガール。


これはいい。古き良きライトノベルを読んでいる気分だった。
懐古厨でもいいじゃない、おっさんだもの(開き直り
キャラデザを含め昭和の冒険アニメを思わせるような純ファンタジーな世界で繰り広げられるボーイミーツガールで、初めて国の外に出た王子が次々と新し事に出会う冒険のワクワク感あり、過酷な運命を自分の手で切り開こうとする成長譚あり、悪役が分かりやすく悪役していて勧善懲悪な面もある、読んでいて純粋に楽しい王道のファンタジー。地の文を少し噛み砕けば児童文学でも行けそう。
そこに、濃いめのキャラ設定におふざけのネタで度々笑わせてくる軽さとノリの良さという、ライトノベルらしい味付け。こういうのでいいんだよ。他のとの差別化ばかり意識して、奇をてらい過ぎな作品が多い中で、こうして王道を突き進む作品に出会えたことが嬉しい。
王子の戦いと、国を追い出された人々の革命は始まったばかり。人間の国の闇、主人公が罹った病気の謎、亜人の王は何か知っているらしいこの世界の謎と、明かされていないこともいっぱいあるので、続きがとてもが楽しみ。

「悪魔の孤独と水銀糖の少女 II」紅玉いづき(電撃文庫)

呪われた島から旅立ち、逃亡の日々を送ることになった孤独の悪魔を背負う男ヨクサルと死霊術師の孫娘シュガーリア。
世界から失われつつある異端を救う道行きの中で、彼らは人ならざる有翼種の血を引く子供、ビーノと出会う。
「俺達のことは、信じなくてもいい」
「あなたは生かすわ……なんとしても」
帝国の謀略が蠢く砂漠の街、バフハに潜入した彼らに追っ手が迫る中、ヨクサルは自分の罪と過去に直面する。
「お前を殺すのは──僕の役目だよ、ヨクサル」
孤独と幻想のあわいで、シュガーリアの身を焦がしたのは、初めての恋の激情だった。


帝国の追手からの逃避行であり、帝国への復讐の旅であり、帝国に異端とされた同胞に救済の手を差しのべる旅でもある、シュガーリカとヨクサルの旅路を描くシリーズ第2弾。
色々な意味で予想外の続編。
御伽噺のような幻想的な雰囲気と、奪う者と奪われる者に宗教弾圧にと世の中の現実を突きつけてくる厳しさを併せ持つ独特な世界観は、島を出ても変わらず。
それに今回は逃避行とあって、ごろつきやら海・盗賊やら裏社会の人間ばかりに会うのだけど、その中でされるシュガーリカとヨクサルの甘く優しいやり取りが際立っている。この厳しくも優しくて、泣きたくなる紅玉作品の作風が大好きだ。
その厳しさと優しさの対比の象徴だったのが、砂漠で拾った少年ビーノ。
死にかけていた奴隷少年が、二人の優しさによって救われていく様子に心が洗われる。しかし、そのビーノが一転……。本物の優しさとは何か。本物の強さとは何か。本当の自分が最も大事なものを自覚する大切さ。色々なことを考えさせられる物語だった。
……と、真面目に締めるつもりだったのに、このエピローグは何事!?
突然の甘ーいラストシーンに顔のニヤけが抑えられない。これじゃあお砂糖ちゃん呼ばわりに文句は言えないな。
続くとも終わるとも言えないラストだが、二度あることは三度ある?

「三角の距離は限りないゼロ3」岬鷺宮(電撃文庫)

文化祭実行委員なんて、柄じゃない。でも僕らの関係を変えようとする春珂の願い、春珂を想う秋玻の気持ちから委員として動き始めた僕は、かつての僕を知る庄司霧香と出会う。再会なんてしたくなかった。霧香は僕が別れを告げたはずの「過去の自分」を育てた人だから……。
華やかな文化祭の裏側で、彼女は僕らの恋に隠れた、何より僕が隠した欺瞞をこそ残酷に暴いていく。
もう戻れない僕らの関係。揺さぶられる『僕自身』のあり方。そして、舞台の幕が上がる――。
僕と「二重人格」の彼女たちが紡ぐ、三角関係恋物語


春珂に請われ、隣の高校との合同文化祭の実行委員に選ばれた矢野は、キャラ作りの師匠・庄司霧香と再会する。

矢野少年が悩んで終わった。矢野が秋玻と春珂との関係に答えを出すのに必要なステップなんだろうけど、ヒロインそっちのけでやることなんだろうか。
前回のラストに続いて押しの一手だった春珂は出番が少ないなりに存在感はあったものの、秋玻は完全に空気。実行委員でずっと一緒にいるはずなのに。秋玻派で、今回の登場人物の言うところの「陰の者」に近い彼女が大胆な行動をする時が一番好きな私は不満です。大変不満です。彼女も悩んでいたのだから、そちらも描写してくれれば、三角関係の物語らしくなったのに。
それでも矢野の悩みに共感できていれば、彼の成長を見守る青春ストーリーとして楽しめたんだろうけど、その悩みが理解できない。
キャラを作るか作らないか、どうして0か1しかないのだろう? 程度の差や良し悪しは置いといて、親しくない人には外面で、気の置けない人には地を出すのは普通のことでは? 小学生でも使い分けるだろうに。
キャラを作るのは友達に嘘をついているみたいで嫌だというのは解る。でもそれを赤の他人相手に感じるか? 感じないと思うけどなあ。そこが思春期特有の潔癖さであり、矢野の真面目さ誠実さ……なのかなあ……うーん、わからん。
三角関係の恋物語から離れてしまって、主人公が何に悩んでいるのか分からず、なんだかなあといった感じ。
次こそ「三角関係恋物語」に期待したい。