いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「卒業したら教室で」似鳥鶏(創元推理文庫)

市立高校にまた卒業の季節がやってきた。柳瀬さんをはじめ、仲のよかった先輩たちが高校を巣立っていく。そんな三月の放課後、秋野麻衣が不可解なものを見たと相談に。真っ暗なCAI室で鍵をかけ、誰かが電源も入れずパソコンで何かをしていたらしい。どうやら校内八番目の七不思議、神出鬼没の「兼坂(んねさか)さん」と判明し。葉山君たちは真相解明に奔走するが……。〈市立高校シリーズ〉最新長編。

約五年ぶり、久々の市立高校シリーズ第8弾。



目次がカオス!
現在の「兼坂(んねさか)さん」事件と、12年後にオンライン飲み会をしている葉山とミノの会話、異世界ファンタジーの作中作の三つが同時進行で進む、ライトノベルチックな一冊。青春×ミステリの中では硬派なイメージな市立高校シリーズで、なんてチャレンジングな。
密室に現れては消える「兼坂さん」の犯人と動機と真相は? 珍しくやる気が感じられない伊神さんの真意は? 「兼坂さん」事件を基にして書かれたと思われる異世界ファンタジーの作者は? 作中作内の犯人は? 未来の葉山くんが「うちの人」と呼ぶ人物は? 謎がいっぱいで面白かったけど、頭の整理が大変だった。おまけにあとがきで煙に巻いてくるし。
「兼坂さん」の正体と動機は分かりやすく、作中作の作者も早々に気付いたが、事件全体の真相には完全にやられた。伊神さんのらしくなさはそういうことだったのか。理由が分かってスッキリ。同時に市立高校は魔境だな、とも。などと納得していたら、12年後にもう一つの爆弾が。まさか作中作の秘密がそんなところに繋がるとは。
そして最重要な謎「うちの人」は、ミノの話しぶりと秋野の真意に今更気付いた時点でそういうことだよね。ニヤニヤ
数多の謎を一つに綺麗にまとめ、最後はめいっぱいの青春に着地させる。最高の読後感。しばらくこの幸せ気分に浸りたいと思う。
あとがきによるとシリーズ完結ではないそうで。今のペースだと次は七年後? 気長に待ちます。



表紙が変わってしまってから二冊目なわけだけど、
もしかして表紙の左が柳瀬さん? 眼鏡がないってどういうことなの?(怒)

「天才王子の赤字国家再生術9 ~そうだ、売国しよう~」鳥羽徹(GA文庫)

「よし、裏切っちまおう」
選聖侯アガタの招待を受けウルベス連合を訪問したウェイン。そこでは複数の都市が連合内の主導権を巡って勢力争いに明け暮れていた。
アガタから国内統一への助力を依頼されるも、その裏に策謀の気配を感じたウェインは、表向きは協調しながら独自に連合内への介入を開始する。それは連合内のしきたりや因習、パワーバランスを崩し、将来に禍根を残しかねない策だったが――
「でも俺は全く困らないから ! 」
ノリノリでコトを進めるウェイン。一方で連合内の波紋は予想外に拡大し、ニニムまでも巻き込む事態に!?
大人気の弱小国家運営譚、第九弾!

祝☆アニメ化!


王政ではなく四都市の代表の合議によって政治が行われているこの世界では珍しい国ウルベス連合。その国の年に一度の調印式に他国の王子ウェインを招待した東の代表選聖侯アガタの真の目的とは? という内容で送る第9巻。
作戦開始から招待した本人を裏切る前提で動き出す主人公とは思えぬ悪役ムーブ。一見平和的でも中身は相手の弱点を的確に突く実に嫌らしい悪魔的な嫌がらせの数々。ウェインが相変わらずウェイで楽しい。お見合いで嫌がらせするとか、どういう頭してたら思いつくんだよ。
ただ今回は自分に火の粉がかからない分、やり口はやや大人しかった印象。
でもその分、ニニムさんがヒロインしてた。
いつもは諜報兼護衛で、小休止的に可愛い成分を補給してくれるだけだが、今回は悩んだり捕まったりと扱いが完全にヒロイン。おかげで素が出たシーンが多く読めて嬉しい。「くてーん……」はズルいわー。
今回も面白かった。
次は東も含めてド派手になるそうなので、出て来るであろうロワとの狐狸合戦に期待したいところ。フラーニャを擁立しようとしているウェインの一連の動きは、自分が隠居する布石か?はたまた別の狙いがあるのか?も気になるところ。

「ソードアート・オンライン プログレッシブ7」川原礫(電撃文庫)

かつて、ベータテスターの半数が脱落したといわれるアインクラッド第七層。そこでプレイヤーたちを待ち受けるのは巨大カジノと――。
「…………失ったよ、全てを」
ベータ時代のキリトが全財産を失った《モンスター闘技場》だった。情報屋のアルゴに誘われ、闘技場に仕掛けられた不正を探るキリトとアスナは、いつしかカジノの暗部へと足を踏み入れていく。
いっぽう、《エルフ戦争クエスト》もまた急展開を迎えていた。キズメルと合流するため、ダークエルフの拠点《ハリン樹宮》を目指すキリトたちを、あまたの危機が襲う――!


カジノだ!ビーチだ!な第七層前編。真面目で倹約家なアスナさんの監視付きなので、どちらも楽しめそうにないけれど。 
まさに“前編”な内容だった。
アルゴに巻き込まれたカジノ絡みのクエストと、ダークエルフのクエストの第七層分、どちらもスタートして初めのお使いが終わったくらいまでで、話の核心に辿り着くにはもう少しかかりそう。それにPK集団もキリトが疑心暗鬼に囚われているだけで、まだ影も形も出てきていないので、後編は分厚くなる予感。特にカジノのクエストは拗れそう。共同経営者が片方だけイカサマしてるなんて、まあないよね。
そんな中で見どころはかわいいアスナ
触手プレイも捨てがたいが、今回の一番は「眠れないの」イベントでしょう。普段はまだまだ警戒心が強いのに、時々無防備になるからズルい。
それにしても、最近のアルゴの存在感が増し方が凄い。
間に本編ユナイタル・リングがはさまっている所為も多分にあるが、アルゴが傍にいることに違和感がなくなっている。むしろ一緒にいるのが当たり前になっているような。もう三人でパーティ組んじゃえばいいのに。老成して仙人みたいな本編キリト氏と違って、こちらの中二男子キリトくんにはお姉さん二人の相手は荷が重いだろうけど。
ところで最後、女性陣の入浴シーンがないのはバグですか? 次回、クエスト報酬でビーチ解放からの水着回、期待してます!

「ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒」菊石まれほ(電撃文庫)

脳の縫い糸――通称〈ユア・フォルマ〉。ウイルス性脳炎の流行から人々を救った医療技術は、日常に不可欠な情報端末へと進化をとげた。縫い糸は全てを記録する。視覚、聴覚、そして感情までも。そんな記録にダイブし、重大事件解決の糸口を探るのが、電索官・エチカの仕事だ。
電索能力が釣り合わない同僚の脳を焼き切っては、病院送りにしてばかりのエチカにあてがわれた新しい相棒ハロルドは、ヒト型ロボット〈アミクス〉だった。
過去のトラウマからアミクスを嫌うエチカと、構わず距離を詰めるハロルド。稀代の凸凹バディが、世界を襲う電子犯罪に挑む!
第27回電撃大賞《大賞》受賞のバディクライムドラマ、堂々開幕!!


脳内に埋め込む情報端末〈ユア・フォルマ〉の普及した世界で繰り広げられる近未来SFサスペンス。
世界観としては所謂電脳世界でこれと言った目新しさはないけれど、流石は電撃の大賞作と思わせるクオリティの作品だった。
まずは探偵ものとして面白い。
中盤の起承転結の転のインパクトと、真相が犯人へ至る道筋が綺麗なのも良い点だが、それ以上に凸凹コンビの関係性が面白い。
普段は仲が悪くて口を開けば罵りと皮肉の応酬なのに、ここぞの時には妙に息が合った連携を見せる絶妙なバディ感が心地いい。
また、幼少期に受けた多くの心の傷から怯えた猫のように方々に牙をむく孤独な少女・エチカが、相棒との触れ合いの中で凍った心を溶かしていく救いの物語でもあり、人間ドラマとして読み応えがある。
そのどちらの要素でも、主人公エチカ以上に存在感があったのが相棒ハロルドのキャラクター。
普通なら人に従順なはずのヒト型ロボットでありながら、人を食ったような喋り方をするので掛け合いがより面白くなっていたし、時々エチカに見せるロボットは思えない優しさがあるかと思えば、場合によっては人類を滅ぼしそうな冷徹な一面も併せ持つ。一筋縄ではいかない濃いキャラクターだった。
好みの問題はあれ銀賞、金賞と微妙だったので心配だったのだけど、大賞はちゃんと面白かった。良かった。

「ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います」香坂マト(電撃文庫)

内勤だから超安全、公務だから超安定! 理想の職業「ギルドの受付嬢」となったアリナを待っていたのは、理想とは程遠い残業三昧の日々だった。すべてはダンジョンの攻略が滞っているせい! 限界を迎えたアリナは隠し持つ一級冒険者ライセンスと銀に輝く大槌(ウォーハンマー)を手に、自らボス討伐に向かう――そう、何を隠そう彼女こそ、行き詰ったダンジョンに現れ、単身ボスを倒していくと巷で噂される正体不明の凄腕冒険者「処刑人」なのだ……!
でもそれは絶対にヒミツ。なぜなら受付嬢は「副業禁止」だからだ!!!! それなのに、ボス討伐の際に居合わせたギルド最強の盾役に正体がバレてしまい――??

第27回で電撃小説大賞金賞受賞作


内容はタイトル通り。現代に置き換えて要約すると、ブラック企業に勤めるOLが、残業とストーカーと先輩からの業務の押し付けとストーカーとクレーマーとストーカーと上司からの無理難題に悩む話。ファンタジーの世界も世知辛いね。

まっっったく合いませんでした。
残業とか糞上司とか社会の柵とかをコメディにして笑い飛ばそうというコンセプトは伝わってきたが、基本的に主人公の不幸をコメディにして笑う話は好きじゃない。主人公が気にしていないならまだ読めるけど、常にイライラしているような作品はどう楽しんでいいのか分からない。特に本作は縁遠いストーカー被害以外は、他の悩みは身につまされる内容ばかりでとても笑えない。
その上、ストーカーにしてもギルマスにしても、主人公が困った人を放っておけないいい子なのをいいことに、強く押せば断れないだろうと、その弱みにつけ込んでいるようにしか思えない。これこそパワハラだ。
戦闘は主人公が強すぎて爽快感により作業感が強く、ストーカーはなぜか許され、結局残業生活に戻ってるしで、スッキリ出来るところがないまま、彼女の境遇と状況に同情はするばかりで終わってしまった。
コメディにマジレスしても仕方がないけれど、主人公のアリナさんには冒険者として稼ぐだけ稼いで、後は自堕落な隠居生活することを勧めたい。