いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章 後編」武田綾乃(宝島社文庫)

久美子たち三年生部員にとって最後となる吹奏楽コンクールを控え、さらに練習に熱が入る北宇治高校吹奏楽部の部員たち。波乱のオーディション、滝の方針への疑念、自身の進路……苦悩する久美子は、ついに麗奈とぶつかってしまう。はたして久美子は最大の試練を乗り越えられるのか? そして、最後のコンクールの結果はいかに――!?
大ヒット吹部青春エンタメシリーズ、ついにクライマックス!


三年生、最後のコンクールへ。正真正銘のクライマックス!
決まらない進路と決まっていく周り、日に日に高まる部内の不協和音、麗奈との喧嘩。焦り、苛立ち、もどかしさ、無力な自分への怒りと、いるいろな感情が渦巻いて苦悩する久美子の様子に胃が痛くなる思いだった。そこに変わることへの怖さ、高校生活と部活が終わっていくことへの寂しさも加わって、どの場面でも一喜一憂、感情が忙しかった。
前巻でいっぱい撒かれていた地雷原のうち、爆発したのは「真由」。コンクール毎にオーディション+実力のある三年の転入生の時点でこうなることは分かっていたが、真由という毒がここまで長引くとは。奏ちゃん分かるよ。俺もこういうタイプ嫌い。本人は善意のつもりで他人の神経を逆なでしてくるところが特に。
と、トラブルメーカーに毒を吐きつつ読み進んでいたら、あるシーンで気付かされた。このユーフォソロをめぐる久美子と真由の争いは、1年の時のトランペットソロの顛末と同じなんだ、と。そういう視点で見ると、他の問題にもこれまで部内で起きた問題と似たところがあって、これは久美子の集大成の物語なんだと実感する機会になった。
それを気付かせてくれた二人の先輩のお宅訪問から、涙腺を刺激するポイントのオンパレード。
悩んでいた進路がするっと思わず出た言葉で決まる瞬間。悩みぬいた末に出た答えと部員たちへの演説。最後の演奏と結果発表。いったい何度泣かすんだ。もちろん、1年生からずっと見守ってきた久美子だからこその、感情移入の深さ故なんだけど。長期シリーズだったからこその味わえる感動だ。彼女の苦労が報われたラストと、読み終わってから見た表紙の笑顔に感無量。
ただ、大きな心残りが一つ。どうして卒業式が飛ばされてるんです? 送る側の卒業式2回でボロ泣きしてきたので、久美子の分がないのは納得いかない。
でもまだ短編集が、1年次2年次の長編後にあったから今回もきっとあるはず。
卒業式以外にも、久美子の大学時代に、その後の麗奈との関係、北宇治の新部長は?(順当なら梨々花かな)、秀一との関係は?(エピローグではまだ結婚はしてなかった)、等々気になることがあり過ぎて出てくれないと困る。