いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「放課後探偵団2」青崎有吾 他(創元推理文庫)

響け! ユーフォニアム〉シリーズが話題を呼んだ武田綾乃、『楽園とは探偵の不在なり』で注目の斜線堂有紀、『あの日の交換日記』がスマッシュヒットした辻堂ゆめ、『タスキメシ』『競歩王』などスポーツから吹奏楽まで幅広い題材の青春小説を書き続ける額賀澪、〈裏染天馬〉シリーズが好評の若き平成のエラリー・クイーンこと青崎有吾。1990年代生まれの俊英5人による書き下ろし学園ミステリアンソロジー


若手作家5名による学園ミステリアンソロジー


「その爪先を彩る赤」武田綾乃
内容:演劇部に代々伝わる赤い靴盗難事件の解決に乗り出す生徒会役員と学園長の娘

赤い靴盗難事件は早々に自白している人がいたので「分かりやすいな、おい!」と思っていたら、なるほど説くべき謎はそっちか。やられた。
部内の複雑な人間関係の機微を描く『響け!ユーフォニアム』の作者らしい作品。
女性にして僕と自称しズボンを履きお嬢様先輩を手玉に取りそれでもノーマルと言い張る、主人公の薫の存在が最もミステリアス。



「東雲高校文芸部の崩壊と殺人」斜線堂有紀
内容:文化祭の次の日、部室に行くと部員の死体が

どうしてこうなった……。
ミステリと言うよりホラー。
そんなに多く読んでいるわけではないけれど、斜線堂有紀さんが作り出すキャラクターは相変わらず思考がぶっ飛んでいる。



「黒塗りの楽譜と転校生」辻堂ゆめ
内容:教室に置いてあった合唱コンクール用の楽譜が全員分一分黒塗りにされる事件

語り部のピアノ伴奏の女の子と探偵役のオタク少年の関係性に青春を感じるのと、おどおどしている転校生の秘密はスッキリ解決でよかったのだが、楽譜塗りつぶし事件の方は正直意味不明。
大半の人が楽譜なんて読めないのにクラス全員に楽譜を渡した理由は?合唱コンクールで楽譜なんて貰ったことないぞ) 渡した時点ですでに何人かには全部を見られている可能性が高いのに今更塗り潰した理由は? そもそも塗りつぶすよりコピーしてきた一ページを差し替えた方が圧倒的に早いのでは? 慌てた犯人に合理性を求めるのはナンセンスだけど、初めから最後まで理屈が一つも通っていないので、首を傾げるしかない。彼氏と別れるためにわざと書いてみんなに渡したという理由の方がまだ納得できる。



「願わくば海の底で」額賀澪
内容:地元の高校生だった二人が東日本大震災で亡くなった祖父の足跡を辿る青年の手助けをする

東日本大震災を題材にした短編。
傍から見れば遣る瀬無いとしか言いようがない、無念と後悔で消化しきれない想いを今でも抱えた彼らのような被災者はいくらでもいるのだろう。と、思えるくらい真に迫ったいい作品ではあるとは思うのだけど……。
10年経って被災者でない人が読んで忘れないことは大事かもしれないが、当事者にはほじくり返されたく人はいくらでもいるのに、この手の作品を学園ミステリを楽しむためのアンソロジーに不意打ちのように掲載するのはどうかと思う。



「あるいは紙の」青崎有吾
内容:格技場裏の吸い殻の謎を追う新聞部

最後にしてやっと“学園”“ミステリ”らしい作品が出てきてほっとした。
好きというわけではないが、あの娘の役に立ちたいし放っておけないという気持ち。嫉妬までの強い感情ではないが何かモヤっとする心中。倉町くんの揺れる感情が青春小説として絶妙な塩梅でとても良かった。