いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「めぐり逢いサンドイッチ」谷瑞恵(角川文庫)

「サンドイッチになってると、なんだかわくわくするでしょう」
大阪の靭公園前にある『ピクニック・バスケット』は開店3年目の手作りサンドイッチ店。姉の笹子ろ妹の蕗子のふたりで切り盛りするこのお店には、個性豊かな人々が訪れる。タマゴサンド嫌いなOL、人気のない具材を探す女子高生、イケメンパン職人や職業不詳の常連客など。具材と一緒に思い出をパンにはさんた絶品サンドイッチが、あなたの心をおいしく癒やします。


大阪靭公園前にある姉妹で営むサンドイッチ屋さんを舞台にした人情物語。
姉・笹ちゃんと自由人の常連客小野寺さん(+店舗の持ち主徹子さん)=ロマンチスト
妹・蕗ちゃんとパン職人川端(+他一部常連客と1話女性客二名)=リアリスト
誰でもどんな意見でも好意的に捕らえてどこか夢見がちなロマンチストたちと、なんでも否定的に捕らえて「嫌い・他人は敵」から入るリアリストたち。初めのうちは、この両者が同じ物語の登場人物とは思えないほど考え方は違うし纏う空気は違うしで、違和感の強いもにょもにょする物語だった。
それが話が進むうちに、リアリストたちはそれぞれの事情を知ったり好転して終わる事の顛末に、自分の考え方を反省していく。ロマンチストたちには、それぞれに苦い過去のエピソードが出てきて悩み苦しむ姿が見えてくる。人間、夢見てばかりはいられないし、かといってずっと刺々して緊張していては壊れてしまう。そんな当たり前のことを感じているうちに、違和感はいつの間にかなくなっていた。仕舞いにはバラバラだった人達が楽しいを共有できるようになっていって、思わず顔がほころぶ。
初めどこがほっこりだよと思っていたが、帯の「ほっこり癒される物語」は偽りの看板ではなかった。