いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「夏を待つぼくらと、宇宙飛行士の白骨死体」篠谷巧(ガガガ文庫)

夏を待つぼくらと、宇宙飛行士の白骨死体 (ガガガ文庫 ガし 9-1)

「僕らの青春は奪われたんだ!」二◯二三年七月、緊急事態宣言も明け日常を取り戻しつつあった僕らは、受験勉強が本格化する前の思い出づくりとして深夜の旧校舎に忍び込んだ。好奇心と背徳感に胸を高鳴らせ、物置部屋の古びた扉を開ける。するとそこには、宇宙服を着た白骨死体が鎮座していた! 果たしてその死体は本物なのか? なぜ宇宙服を着ているのか? 幼馴染四人は、その死体を“チャーリー”と名付け、高校最後の夏をかけて奇妙な謎の真相に挑む。第18回小学館ライトノベル大賞・優秀賞受賞作。


ある事故をきっかけに高校入学以来疎遠だった幼馴染み四人が、取り壊しの決まった旧校舎で宇宙服を着た白骨死体を見つけたことから始まる、ひと夏の冒険譚。
高校最後の夏の思い出というシチュエーションに、夏とSFの組み合わせが感じさせてくれるノスタルジー、作品の雰囲気は最高だった。
そこで四人の幼馴染みたちが、元々は気の置けない仲だけど疎遠な期間が長かった所為で、時に気を使いすぎたり、時に昔の感じに戻って気安い会話が出来たりしながら、次第に昔の距離感を思い出していく。そんな微妙な揺れと続く友情が青春感を醸し出していた。
これでストーリーが面白ければ文句なしの傑作だったのだが……
「ここまでやったらSFで突き抜けろよ!」と言わずにはいられない。
中盤までSF要素の伏線張りを一生懸命していて、謎が謎を呼ぶワクワクの展開だったのだが、「嘘みたいな出来事を、現実に引き戻してやろう」の一言から急転直下。そこまでの盛り上がりからは想像できない現実的でしょっぱい結末を迎えることになる。なぜ最後の最後で急ブレーキをかけたのか。
百歩譲って現実的な結末になるにしても、その結末に至る新情報を終盤に詰め込みすぎだ。ミステリではないのでアンフェアとまでは言わないけれど、ストーリー展開があまりに唐突で完全に置いてけぼり。というか、冷静に考えて終盤でパッと出てきた冴えない男を救う話で感動するか?
疎遠だった幼馴染みたちが元の距離感を取り戻していく青春感はとてもよかった。作品の雰囲気も良かった。しかし、ストーリーラインはまったくもって美しくない。新人賞作だから完成度が高くないのは仕方がないが、ほかの要素が良いだけにもったいない。