いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「終末なにしてますか異伝 リーリァ・アスプレイ」枯野瑛(角川スニーカー文庫)

リーリァ・アスプレイ――極位の聖剣セニオリスに資格を認めらた正規勇者(リーガル・ブレイブ)の少女。「あんたって、やっぱりさ。生きるの、へたくそだよね」 人類を守護するという使命を背負う彼女に並び立つことを諦めない兄弟子に、複雑な感情を抱きながら。怪物が蔓延る地上でリーリァが過ごすのは、烈しくも可憐な日々。
アニメ化も果たした『終末なにしてますか?』シリーズから紡がれる、いつかは滅びゆく大地で、いまを生きる勇者と人々の物語。


本編でも度々名前が出てくる、当時ヴィレムがどうしても助けたかった内の一人、勇者リーリァが主人公の物語。

リーリァの明るくていい意味でいい加減な性格のおかげで、このシリーズとしては珍しく明るい雰囲気のお話。本人がヴィレム好き好きオーラを出していたのも、大きな要因だろう。気になるあの子似のぬいぐるみに顔をうずめる13歳には「かわいい」以外の形容詞はないって。
巻き込まれた事件は単体で面白く、そこで語られるリーリァの本心も興味を惹かれる内容だったのだけど、どうしても気になってしまうのは、あちこちに散りばめられていた本編(現代)との繋がり。
中でも聖剣の適合条件と、聖剣セニオリス誕生の物語。
妖精兵たちは、そういう意味でも“パーツ”なんだな、と。ここにきて切なくなる条件をプラスしてくるとは。それと、リーリァが言うセニオリスを持つ条件と、セニオリス誕生の物語を読む限り、ヴィレムがセニオリスに選ばれてもおかしくないと思うのだが。彼には何が足りなかったんだろう。
他にも、小さくてもヴィレムはヴィレムだったり、ヴィレムが聖剣の調整が出来た秘密が明らかになっていたりと、どうしても本編に想いを馳せてしまう一冊だった。
お供兼お目付け役で付いてきたシリルさんがかなり良いキャラだったんだけど、またどこかで出てこないかな。

「葡萄大陸物語 野良猫姫と言葉渡しの王」一ツ屋赤彦(角川スニーカー文庫)

様々な種族がひしめき合い、“葡萄”のように国が乱立する大陸の小国ランタン。流浪の少年メルは、多言語を話せる特技ゆえに、豹人族の姫シャルネの教育係に抜擢される。己の奔放な振る舞いにも常に優しいメルに、徐々に惹かれていくシャルネ。そんな折、大国との政略結婚を控えた彼女は相手の王を怒らせ、婚姻は最悪の形で破談に。二国間の緊張が高まる中、次期ランタン王に任命されたのは、なんとメル!? 王として彼が取った起死回生の策は“シャルネと結婚し、豹人族の協力を取り付ける”というものだった! 言葉を操り、人を繋げ、敗戦必至の大戦に挑む。弱小王国の下克上ファンタジー、ここに開幕!

第24回スニーカー大賞〈金賞〉受賞作


あらすじに起死回生の策や下克上という単語が並んでいたので、野心のある切れ者タイプの主人公を予想していたら、純然たる善人が出てきて驚いた。
そんなわけでこの物語は、人間、亜人、エルフなど多種族が入り乱れる世界で、爪弾き者が集まる国で育った少年が、種族間の壁を取り払い、真の平和を願う壮大なファンタジー
王道ファンタジー、戦記もの、成り上がり、ボーイミーツガール、ネコミミ、幼妻……よくもまあここまでと思うほど好きな要素を詰め込んだ、新人賞らしい作品だった。それでいて破綻せず、一つの物語として成立しているのが素晴らしい。
特に良かったのがキャラクターの性格。
平和を愛する実直な少年で、周りの期待に応える為、一人の女の子を不幸にしないために頑張るメル。そんな彼を信頼し、時に足りな部分を補う素直なじゃじゃ馬シャルネ姫。口下手ゆえに誤解されやすいが実は人一倍優しい姫の護衛のキリン。彼らを中心に、真摯な姿勢と直向きさが作中の人達を動かし、読者は応援したくなる、そんな愛すべきキャラクターたちが、厳しい世界情勢の中、優しい雰囲気を作り出していた。
戦争シーンでさえ、戦う兵士の感情を一番に考えた戦争描写にすることで、メルとシャルネの優しい人柄を表すことに一役買っていたくらい。まあ、戦場の描写は上手くないし(戦況が非常に分かりにくい)、両国軍師の策も平凡で、戦記としてはお世辞にも出来がいいとは言えないのはご愛敬ということで。
優しさに溢れた素敵なファンタジーだった。
続きの予定はあるのだろうか。
綺麗事の理想論をどこまで貫けるのか、豚王のその後は?、キリン様に婿は来るのか(←これ最重要)と、気になることが多いので、是非とも続きも書いて欲しい。
ただスニーカーの金賞って、その後行方不明になるパターン多いのよね(^^;



先日ファンタジアで出た『のけもの王子とバケモノ姫』といい、人と亜人のボーイミーツガール×王道ファンタジー流行の兆し?

「百錬の覇王と聖約の戦乙女18」鷹山誠一(HJ文庫)

ユグドラシル最大の決戦、その行方は!?
大陸の覇権を目指す《炎》の信長と、大陸の救済を目指す《鋼》の勇斗。両雄が神都の南で相対する一方で、宗都イアールンヴィズでもリネーアが猛将シバによる襲撃を受けていた。かつてない強敵たちとの戦いの中で、果たして《鋼》は人々を護り切ることができるのか!?
ユグドラシル崩壊の序曲が響く中、史上最大の決戦は佳境へと向かっていく――


攻める《炎》信長と、守る《鋼》勇斗。ついにやっとようやく双方の大将が動き出して、本格的に最終決戦が始まった18巻。
信長の弱点ってそれかー。
前巻ラストの勇斗の思わせぶりな台詞から一番の関心事だったのだけど、思ったより普通だった。現代人と戦国武将の視点の差や知識の差から、何か見出したのかといろいろ想像を膨らませていたのだが。いや、本命の策は最後にとってあるという可能性も……なさそうだなあ(^^;
そもそも勇斗はあまり勝つ気がないような印象だった。勝つためではなく、民が移動する時間を稼ぐための戦いをしている。大陸からの脱出が最終目標である以上、決着をつける必要はないってことなのかな。勇斗の性格や戦略上、正々堂々正面からというのはないとは思っていたが、勝つ気では戦うものだと思っていたので、拍子抜けした部分がある。
そんな消極的な戦いだったからなのか、天にも見放されあちこちで窮地に立たされた《鋼》。この局面をどう乗り切るのか、次回は勇斗の活躍に期待したい。とりあえず強者による個対個の決着が楽しみ。

「青雲を駆ける 5」肥前文俊(ヒーロー文庫)

フランコからの要請で、島の東側の村を回ることになったエイジ。鍛冶師として東の村に道具を作ることが主目的ではあるが、東の村には、この島を作ったご先祖様が最初に立ち寄った浜があると聞き、
日本に繋がる手掛かりがあるかもしれないと考える。弟子のピエトロ、ダンテ、レオ、カタリーナを連れて旅立つことになったのだが、その前日、タニアが嫌な胸騒ぎがすると言って出立を引き留める。さらには巫女のアデーレまでもがこの旅に不穏な神託を受けたと言い、エイジは不安を抱えたまま、シエナ村を発つことになった。まずはナツィオーニの町に行き、ナツィオーニとフランコから目的地を聞く。今回の派遣は東の村と西の村の関係を取り持つための一環であり、エイジたちに危険はないと言うのだが――。


弟子たちと共に、島の東側を旅するシリーズ第5弾。鍛冶師としては東西の文明水準の差を埋めるため、エイジ個人としてはこの島の秘密、日本に帰れるかどうかのヒントを得るための旅路。
タニアさんとのイチャイチャタイムお預けか。まあ、そこはしょうがないけれど、肝心の旅の方が冤罪を吹っ掛けられて命からがら逃げかえってきただけなのはどうだろう。序盤の不穏な空気ときな臭さである程度分かってはいたが……。
命を懸けた逃走劇には緊張感があったものの、政治に捨て駒同然で利用されていること、初めから先の展開が分かってしまっている点、背負わなくてもいい苦労をしているようにしか見えないことが重なって、読んでいてあまり愉快なものではなかった。事件後これといってスッキリする要素がないのも辛い。
道中で面白かったところていえば、訪れた村の貝殻職人の道具を作っている時くらい。鍛冶仕事している時が一番生き生きしていて、読んでいても面白いと再認識した。
それでも、エイジ個人の目的の方は興味深かった。
エイジの思惑とは違う事実が突きつけられ、逆に謎は深まった。この謎が物語に、エイジの今度にどうかかわってくるのかが楽しみ。それにしても、この問題をこんなに真面目に取り上げるとは思っていなかった。
でも、衝撃のラストで悩んでいる暇はなくなるかな。次は「村」で「生活」の話で、間違いなく必要な苦労なので、ピンチになっても今回より楽しく読めそう。

5月の読書メーター

 読んだ本の数:15冊
読んだページ数:4582ページ

2ヵ月連続少ない/(^o^)\




今月のベスト3
「継母の連れ子が元カノだった2 たとえ恋人じゃなくたって」紙城境介(角川スニーカー文庫




「谷中びんづめカフェ竹善 猫とジャムとあなたの話」竹岡葉月集英社オレンジ文庫




「世界で一番かわいそうな私たち 第三幕」綾崎隼講談社タイガ