いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「君と漕ぐ4 ―ながとろ高校カヌー部の栄光―」武田綾乃(新潮文庫nex)

スター選手、蘭子にスカウトされてペアを組むことになった恵梨香。二人は圧倒的な記録を叩き出し、日本代表選手と目される。努力を重ねる希衣もまた、親友でライバルでもある千帆の実力に迫りつつあった。一方、初心者だった舞奈もいよいよ大会デビュー。ついにカヌー部女子四人揃ってフォア競技に挑むことに! 新入生も加入、新たなステージを迎える熱く切ない青春部活小説第四弾。


ついに舞奈が実戦デビュー!
これまで初心者で競技には参加できず、部内と大会でのカヌー競技界隈の人間関係を見る、語り部のポディションが主な役目だった舞奈がようやく表舞台に。また、恵梨香は強化合宿で不在が増え、希衣と千帆の先輩二人の関係も節目を迎えと、ながとろ高校カヌー部が大きく動く4巻。
今回も瑞々しい人間ドラマだった。
友人関係の中にある遠慮や気遣い、優越感と劣等感、小さな蟠りなどを表現しつつ、若者らしい高潔さと青春感を出す文章が本当に上手くて引き込まれる。だからこそ彼女たちの頑張りに感動できるのだろう。
特に今回は、これまで黙々と努力してきた舞奈の晴れ舞台とあって感動も一入。
2年になってからの県大会。悔しい結果に終わった新人戦も冬の間の苦しいトレーニングも、そして過去3巻分の努力も見守ってきたので、恵梨香の優勝より、やっと殻を破った希衣より、舞奈の結果の方が嬉しかった。さらにフォアでみんなを鼓舞する姿に思わず涙が。
そんな舞奈が追う恵梨香の後ろ姿は、頼もしくなったと同時に遠くなった。
強化選手に選ばれて世界へ羽ばたく準備を始めた恵梨香に、夢物語だった1巻のオープニングが現実味を帯びてきて、高揚感と物語の終わりが見えてきた寂しさが同居する複雑な気持ちに。
そして物語はインターハイへ。後輩二人は2回目の、先輩組は最後の夏。
カヌーには興味がなく青春とは無縁の新入生の存在は火種になるのか、それとも彼女も染められるのか。インターハイの結果と共に気になるところ。



希衣のハラハラ(ハラスメントハラスメント)発言に激しく共感。
自分が気に入らないってだけで〇〇ハラスメントと名付けて声高々に喚く、それこそハラスメント行為だわ。

「魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?13」手島史詞(HJ文庫)

ネフテロス&ゴメリ救出作戦!!
キメリエスがゴメリを救うべく離脱した中、魔王シアカーンが過去の英雄たちの大軍勢を率い、ついにザガン達へと攻め込んできた。
一方で、ビフロンスの策謀により<アザゼル>化してしまったネフテロスも牙をむく。しかし、迫るあらゆる問題は、ネフィの誕生日を盛大に祝いたいザガンにとっては振り払うべき些事に過ぎない――!!
難敵すらも嫁のためなら圧倒する、最強不器用魔王による大人気ファンタジーブコメ、反撃の13巻!!


シアカーン編完結編。このシリーズでは珍しい全編シリアス。いや、お婆ちゃんはいつも通りか、半死なのに……。
このシアカーン編は過去にばかり目がいっていて今には大きな動きがなく、シアカーン本人は死にかけで表舞台に立たず、おまけにつるんでいる相手がザガンに勝てずに嫌がらせしか出来ない〈魔王〉ビフロンス。終わった魔王たちの鼬の最後っ屁で、ザガンが一蹴して終わりでしょ?と思っていのだが、蓋を開けてみたら史上最強にして最悪のゾンビアタック(本来の意味とはやや違う)だった。
そんなわけで、過去の英雄たち一万vsザガンの魔術師軍団&聖騎士たちがぶつかるド派手な戦争の様相の13巻。その過去の英雄たちの中には、父、想い人、仇敵など、ザガン陣営と因縁のある相手が何人も含まれていて、各所で想いと想いがぶつかり合う熱い戦いが繰り広げられる。
それでなくてもキャラクターが多いこのシリーズ。それぞれの場面をちゃんと想いを乗せて描いていたらそりゃあ本が厚くなりますわ。どれも熱さと優しさゆえの切なさを感じさせてくれる良いエピソードだった。但し、正直誰だっけ?と思う人物も(^^; 
その中で一番はvs屍竜オロバス戦。フォルの成長とラーファエルの怒り、他周りの人達の想いを乗せた戦いが最も熱く盛り上がった戦いだった。
次回からマルク編か? 彼も彼女のあの人も〈魔王〉になってしまって大変な状況だけど、そんなことより指輪どうしようで頭を抱えてそうな気がする。楽しみにしていた誕生日会がエピローグ数ページでさらっと流されてしまったので、甘々結婚準備編を期待したいところ。
ところで、お婆ちゃんはどうなったんだ?

「勇者になれなかった三馬鹿トリオは、今日も男飯を拵える」くろぬか(Mノベルス)

小学校からの幼馴染であるアラサー北山、東、西田。三人は『勇者召喚』で異世界に召喚されるが、鑑定の結果、勇者ではないと分かり城から放り出されてしまう。異世界でのサバイバル生活を余儀なくされてしまう三人だったが……。
自分たちで獲ったものは、肉も、魚も、野菜も旨い! しかも食べると強くなっているような……? 娘のようにかわいい少女・ミナミと共に、三馬鹿は今日も狩りをして、飯を食って生きていく!


web版既読。
アラサー男三人が異世界の森の中で野趣あふれる方法で魔獣を狩って、それをワイルドに料理をして、男気溢れる啖呵を切る、ひじょーーーに男臭い異世界転移もの。
まず目を引くのが溢れる肉汁。彼らが作るサバイバル料理がとにかく旨そう。
料理をする描写からなかなかの飯テロ力があるが、真骨頂は食べた時の感想。本人たち、奴隷少女、受付嬢、同業者と多くの視点でそれぞれの旨いを表現してくる。
それに加えて、勇者召喚で日本人が過去に何人も召喚されている世界で、調味料はばっちり揃っているという設定がズルい。香りも味もある程度想像できてしまうので、飯テロ力が倍増している。
まさに「旨そう」の暴力。肉を目いっぱい頬張りたくなる。実際食べたら胸やけ一直線なのに。
もう一つ良いのがアラサー男三人のサッパリした性格。
勝手に呼んでおいて不要だからと放り出す城の人間にもっと怒っても恨んでも当たり前なのに、唯一の常識人の姫の助力があったにしても、城の外ではスパッと切り替え現状を力いっぱい楽しむ心意気。
また、青臭いと感じるくらいの正義感の持ち主たちで、自分の為でなく誰かの為には怒る。その時の啖呵が真っすぐで気持ちいい。スカッとする。
旨そう、楽しそう、気持ちいい。読んでいると自然に笑顔になる、そんな一冊。

「異世界転移、地雷付き。4」いつきみずほ(ドラゴンノベルス)

ついにマイホームの夢実現! 痛快・のんびり異世界開拓ライフ、第4弾!
オークを処分したお金で武器を購入するためガンツの店に訪れたナオたち。同じく異世界に転移してきたトミーの協力も得て、新しい武器を手に入れると、今度はさらなる力を得るための訓練を始め、戦力の底上げに奮闘する。そして見事新スキルを得た一行は、モンスター狩りに大山椒魚捕獲(という名のレジャー)と、次々とイベントにチャレンジするのだった。そんな中、街には巨大キノコが現れて!? 異世界に転移してから、安定した生活を夢見て奮闘してきたナオたちが、様々なドタバタを経て、ついに念願のマイホームを手に入れる!


マイホームが建ちました。な4巻。
3巻まではほぼweb版準拠だったものが、4巻からは新キャラの登場にweb版は違うストーリー展開と、書籍オリジナル路線に。
新しいエピソードが読めるのは嬉しいけれど、作者の仕事量が倍増して更新ペースも刊行ペースも遅くなるから、書籍オリジナルは個人的にはあまり歓迎ではないんだが。
とは言いつつ、今回の見どころはその新キャラ、錬金術師のウサ耳獣人リーヴァさん。
色白で内気で儚げと、これまでいないタイプの可憐なヒロイン。もっと懐いたら可愛い面を見せてくれそう。対象はナオと女性陣だけになりそうだけど。トーヤとしても待望の獣人の女の子だが、脈無しですね、これは。オープンで押しの強い変態と、引っ込み思案でビクビクしている子って相性最悪じゃないか。トーヤというキャラの扱いと立ち位置がここでも見えるw
サイドストーリーの翡翠の羽もweb版とは違う展開。
レベルを上げて物理(または魔術)で殴ればいいを実践して成功している彼女たちの方が、ハルカたちよりも異世界ものらしいんだろうな、普通は。そのおかげでくっ付いてきた二つ名には苦笑するしかないが。
web版ではニアミスしているが、どこかでハルカたちとばったり出会ったりしないかな。トーヤが狐獣人で魅力的な外見持ちの歌穂に出会ったらどうなるのか興味ある。

「紙屋ふじさき記念館 故郷の色 海の色」ほしおさなえ(角川文庫)

新入生オリエンテーションで大忙しだった小冊子研究会へ、ひとりの新入生が訪ねてくる。百花が作った「物語ペーパー」を見たという。彼女と活版印刷の話で盛りあがり、研究会の新歓遠足は川越にある印刷所「三日月堂」の見学となる。当日、百花は店主・弓子と挨拶を交わす。一方、紙屋ふじさき記念館館が入るビルの取り壊しが正式に決定し、その存続が揺らぎ始めていた。物語は「活版印刷日月堂」が完全リンク、必読!


大学三年生になった百花。そろそろ現実のものとなってきた就職活動に向けて、自分の将来、自分のやりたいことについて悩む百花の様子が描かれるシリーズ第4弾。
日月堂でたー。同作者によるクロスオーバー的なものは大好物なので、それだけでワクワク感倍増。過去作のキャラクターお本来見られない一面が見られるのっていいよね。そうか、あのお婆ちゃんのお庭の子が大学生か。
さて、本編の方はいつも通り記念館での仕事、大学の様子、小旅行(今回は川越と京都)がバランスよく描写されているのだが、就職活動のこともあるのか百花の思考が常に記念館を中心に置かれていて、いつも以上のお仕事小説感がある。というか最早それを通り越して業務日誌になっているような。
日々の生活や外の人との関わりなどで得た発見を、一つ一つ丁寧に記念館の今後に繋げて考える姿勢は意識が高くて、もうすでに社会人のよう。どこかふわふわした印象だった百花がここまでしっかりした考えを持つようになったこと、その前向きな姿勢と真面目さが藤崎にも伝播していたことなど、百花の確かな成長を感じられる話だった。
ただ、あまりに一生懸命過ぎて、どこかで息切れしていまいそうな、何かで挫折した時にぽっきり折れてしまいそうな、そんな不安を感じる面も。そこまで仕事人間でない自分には、そんなに肩肘張らなくてもと思ってしまう。
しっかりしだした百花をどこか誇らしく感じと共に、若干の息苦しさを感じる、そんな話だった。