いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「恋になるまで、あと1センチ」六つ花えいこ(宝島社文庫)

高校1年生の楢崎颯太は、階段から落ちてきた篠先輩を助けた。これをきっかけに、颯太は篠先輩に懐かれるようになる。距離感の近い篠先輩に戸惑いつつも、颯太は彼女の相手をしていく。いつの間にか心の距離が近づき、互いが想い合っていく……。天使のように純粋で、だからこそ危なっかしい篠先輩と、彼女に振り回されながらも心惹かれていく颯太。あと1センチ、気持ちを近づけたいピュアで愛おしいラブストーリー。

第9回ネット小説大賞受賞作


不愛想な長身後輩彼氏・楢崎颯太と、周りに天使と称される小さくて可愛らしい容姿の先輩・花茨篠。階段から落ちた彼女を彼が身を挺して助けたことから始まるラブストーリー。
長身と能面で怖いと思われていることを自覚し、元カノと別れて間もなく恋愛ごとは面倒だと思っているのに、それでも篠に惹かれていく颯太の心情の変化。自分の容姿の良さと他に取り柄がないことを自覚し、上辺だけを気に入られる宝石やブランド品のような彼女ではなく、本物の彼女になろうと、迫り、甘え、誘惑し、精一杯「あなただけが特別です」と表現する篠の姿。
どちらも自覚するマイナス面を見せることで、それでも相手が特別な存在だと、恋に落ちている様子がより強く見えるのがとても甘い。
と、二人の部分だけを切り取れば恋愛小説好きとしては大満足だったのだけど、どうしても気になることが一つある。
周りに性格の悪い奴が多すぎないか?
片想いの子がパっと出の1年生に掻っ攫われた垣野内のウザ絡みはまだわかる。でも、ただの妬みで嫌がらせをする長谷川とか新渡戸とかの心情は理解できない。さほど親しくもないのにここまでするか? ストーリー上のアクセントでしかなかったんだろうけど、人間の負の面を見せつけられる形になって、二人の甘さを邪魔する雑味になってしまった。そこまでマイナス面を見せてくれなくてもよかったのに。
どうかと思うところはあったものの、いい面ばかりではなく駄目なところを見せつつ、それでも惹かれあう高校生の等身大の恋愛模様はとても良かった。花茨家の人々がかなり愉快なので、この後の家族ぐるみのお付き合いが楽しそうで読んでみいたけど、流石にこれはこれで完結かな。