いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫」友井羊(集英社文庫)

高校生の菓奈は人前で喋るのが苦手。だって、言葉がうまく言えない「吃音」があるから。そんな菓奈が密かに好意を寄せる真雪は、お菓子作りが得意な究極のスイーツ男子。ある日、真雪が保健室登校を続ける「保健室の眠り姫」こと悠姫子のために作ったチョコが紛失して…。鋭い推理をつまりながらも懸命に伝える菓奈。次第に彼女は、大切なものを手に入れていく。スイートな連作ミステリー。


吃音症に悩む女子高生・菓菜が、普段は人当たりがいいのにスイーツの事だけは熱くなってしまうスイーツ男子・真雪と、キリっとした美人なのに保健室登校の悠姫子の残念美形二人と仲良くなりながら、お菓子にまつわる身近な謎に挑む日常ミステリ。

化学的な視点から謎を解き明かしていく事が多い「スープ屋しずく」が代表作の作者と、分量をきっちり量るのがキモで料理よりも化学実験に近いお菓子作り。その相性は最高だった。
膨らまないシュークリームや何故か美味しくないクッキーなど、ちょっとの材料や温度管理の違いで結果が変わるお菓子の世界。疑問を感じたらなんでも試してみる実験好きな理系女子な菓菜が、上手くいかなかったお菓子の原因を探り、そこから犯人に繋げていく洞察力がどれも見事。
それに、その過程でお菓子に関する化学的な知識が色々と出て来るので、蘊蓄小説としての面白さもある。個人的には、子供の時はそうでもなかったのに大人になってから牛乳でほぼ100%お腹を壊すようになった原因がわかってスッキリ。
菓菜の吃音症に関しては、しつこいくらいに出て来る割に特に改善も進展もなく、読みにくいだけでこの設定要る?と思っていたんだが、最終話でどんでん返しが。これはやられた。彼女の台詞だけでも、もう一度読み直さなくては。
好みの問題もあり「スープ屋しずく」ほど食欲は刺激されなかったが、その代わりゆっくりと育まれていく友情に青春を感じられて、いつも通りの理系寄りなミステリの作りと相まって、とても面白かった。