いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「放課後レシピで謎解きを うつむきがちな探偵と駆け抜ける少女の秘密」友井羊(集英社文庫)

猪突猛進でトラブルを起こしがちな夏希は、高二になって調理部へ転部する。同じ時期に入部してきたのは、内気なクラスメイトの結。正反対の二人は部活で一緒にパンを焼くことに。でも、なぜか夏希たちの作ったパンだけが膨らまない! 原因を究明しようと奔走するうち、お互いのことを知っていく二人。やがて周囲との関係も変化して……。少女たちの友情がきらめく、極上の料理×青春ミステリー。


「スイーツレシピで謎解きを」から約二年後、菓菜先輩に憧れたあがり症で気弱な少女・結と、猪突猛進なトラブルメーカー夏希がトラブルに巻き込まれていく日常ミステリ。
舞台は同じ高校だが前作の登場人物は直接には一人も出てこないので、これから読んでも特に問題はなかった。でも、順番に読んだ方がより楽しめるのは間違いない。あのおどおどビクビクな菓菜が、結の口からは勇猛果敢な超人のように語られるのが可笑しいやらこそばゆいやら。
また、料理が好きな理系女子高生が化学的に謎を解いていくスタイルには変わりはないが、主人公が二人であることと、発達障害の問題が重く扱われているのが大きな違い。前作の主人公菓菜も吃音症に悩んでいたが、本人の性格と周りの環境もあってここまで踏み込んだ話にはなっていなかった。
忘れ物が多くて集中すべきことに集中できない夏希の問題が話の中心に据えながら、他の症状の生徒が出てきて問題の多様性を見せたり、“普通の人”の為にカスタマイズされ過ぎた現代社会に対する問題定義であったり、問題を多角的に見せて考えさせられる内容になっている。中でも周りの人間の無理解、親ですら理解してくれずに傷付いている姿はいたたまれない。
でも、そんな状況の中で育まれていく、一見合わなそうな二人の友情が尊い
あがり症で臆病な結をグイグイ引っ張っていく夏希、素でキツイ態度と物忘れで誤解を生み敵を作っていく夏希をフォローする結。お互いに助け合いながら、距離を縮め合う二人。そうして様々な問題と誤解を解いていくうちに周りが味方ばかりになっていた最終話にグッとくる。
ちなみに化学なミステリの方は、スイーツだけでなく料理も出て来るのは甘味はそこまでな自分には嬉しいところ。パクチー=シナモン=バニラは思いもよらないかった。たまに茶碗蒸しが固まりにくい時ってそういうことだったのか。なるほど。
予想外に青春の色が濃い話だったけど、面白かった。