いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ぶたぶたのお引っ越し」矢崎存美(光文社文庫)

リタイア後、田舎に移住したいという夫と考えが合わず悩む成実の前に、移住のアドバイザーとして登場したのは――(「あこがれの人」)。家賃の安い「告知事項あり物件」に引っ越すことになった詠斗は、挨拶に訪れた隣の部屋で、衝撃の出会いを果たす――(「告知事項あり」)。
お引っ越しによる、出会いと別れ。その節目に、不思議なぬいぐるみと出会ったら。心震える三編を収録。


去年6月以来の久々のぶたぶたさん。待ってました!
毎度タイトルに因んだお店で働いていることが多いぶたぶたさんだが、今回はどの話も〇〇屋さんではない。まあ、ぶたぶたさんが引っ越し業者だったら荷物に潰される未来しか見えないけどねw

『あこがれの人』……田舎で一ヵ月のお試し移住をしている夫婦の話
夫婦の軋轢にぶたぶたさんが間接的に巻き込まれて、その対処に困っているうちに事態が何となく好転する、ぶたぶたさんがほとんど活躍しない珍しい話。
しかし実際問題、車の運転が苦手な人は田舎には住めないと思う。ふらふらノロノロ軽トラとか、こっちを視認しているのに横断し始める老人とか事故の危険がいっぱい。小学生の方が動きが読みやすくて安全なくらい。

『告知事項あり』……東京に憧れ、金銭的な事情で事故物件に引っ越してきた青年の話
ぶたぶたさんのお隣に引っ越せるなんて、なんて羨ましい。なのに食事の誘いを断るだなんて! とシリーズファンなら思ってしまうが、見た目がぶたのぬいぐるみなのだから警戒する方が自然な反応なんだよなあ。
ところでぶたぶたさんがアパートは仕事場として借りてるって言ってたけど、この話では何の仕事してたんだろう?

『友だちになりたい』……もうすぐ引っ越す山崎さん一家
山崎家長女のクラスメイトの小学生男子と元アイドルの女性、一話の中で二人の主人公がいる(視点がある)このシリーズでは非常に珍しい話。 
「ぶたぶたさんに声をかけたい」という目的の為に、引っ込み思案の少年と仕事で挫折した元アイドル、年代も性別も違う二人の間の奇妙な連帯感と、そこから生まれる友情に心温まる。というか少年、友達になりたいのは美少女と噂の山崎さんちの長女じゃなくてお父さんの方かよ!

そんなわけで今回は、ぶたぶたさんの優しいおじさんの中身よりも、動いて喋るぬいぐるみという存在の不思議さが前面に出た、ぶたぶたシリーズとしては珍しいタイプの三編だった。