いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「本を守ろうとする猫の話」夏川草介(小学館文庫)

夏木林太郎は、一介の高校生である。幼い頃に両親が離婚し、小学校に上がる頃からずっと祖父との二人暮らしだ。祖父は町の片隅で「夏木書店」という小さな古書店を営んでいる。その祖父が、突然亡くなった。面識のなかった叔母に引き取られることになり本の整理をしていた林太郎は、店の奥で人間の言葉を話すトラネコと出会う。トラネコは本を守るために林太郎の力を借りたいのだという。林太郎は、書棚の奥から本をめぐる迷宮に入り込む――。


喋るトラネコと本の迷宮に入り、本を害する人々と相対する現代ファンタジー
迷宮内にいる人たちは、長い本を無理やり短くしたり売れない本を排除したりと、本の置かれている厳しい状況を嘆き、極端に走ってしまった人達。本を愛するがゆえに結果的に本を害することになってしまっている彼らを、トラネコに導かれた主人公が理想論で説き伏せる。本読みに夢と願望が詰まった“優しい世界”な物語だった。
初めは「意固地になっている大人をそんな言葉で説得するのは無理があるのでは?」と思いながら読んでいたのだが、最後には「現実はそう簡単にはいかないけれど、本の中でくらいは理想が勝ってもいいじゃない」と思えるようになっていた。それぐらい作品全体に思い遣りが溢れていた。
それと主人公が語る理想と祖父の生前の言葉が本読みには刺さる言葉ばかりで、自分の読書について改めて考えるきっかけを与えてくれる。そうだよなあ、たまには厳しい登山にも挑戦しないと。
また、ラノベ読みには親和性の高いストーリーラインで読みやすい。
マスコットキャラクター(トラネコ)が現れ不思議な世界へ連れていかれて、途中から仲間が増えて、最終話は捕われた仲間を助けにいく。そして何より塞ぎ込んでいた主人公が前向きになる成長譚。……これは魔法少女ものですね。戦闘や変身はないけれど。
優しい結論とストーリーのとっつきやすさ、散りばめられた世界の名作たちと、児童文学と相性が良さそうな作品だった。大人には著者の真意がわかる巻末の解説の方が面白いかもしれない。