バイオスフィアⅢ型建築、それは内部で資源とエネルギーの全てが完結した、住民に恒久的な生活と幸福を約束する、新時代の住居。その浸透によって人類の在り方が大きく様変わりした未来、バイオスフィアを管理する後香不動産の社員として働くアレイとユキオは住民からのクレーム対応により、独自に奇妙な発達を遂げた家々の問題に向き合っていくことになる――ポスト・ステイホームの極北を描いた新時代のエンタメSF。
滅びゆく人類は内部で生活の全てが完結する住居を開発して引き篭もった。その住居を管理する後香不動産のカスタマーサポート部の社員。極度の閉所恐怖症で建物に入れない少年・アレイと、備品のサイボーグ・ユキオは今日もクレーム対応に赴く。といった感じの終末SF。正直、ちゃんとした説明はかなり難しい難解な世界観。
もし科学が発達し住居内で世界が完結していたら、外にも他人にも関わらなくなった人間はどういった進化/退化をするのか。コロナ禍のステイホームに着想を得たであろう、極端に走ったトンデモSF。全五話の短編連作形式だが、同じ舞台の話とは思えないくらい各話まるで毛色が違う。
最も面白かったのは「第一話 責問神殿」。生きることの意味を痛みに求めてしまったぶっ飛んだ人達が相手だったが、彼らの思考をトレースして答えとクレーム発信者を見つけ出す過程に、安楽椅子探偵的な面白さがある。
また「第二話 名前のないコロニー」も良かった。何重にもエッジが効いているオチに関心と苦笑が入り混じる。
しかし、第三話目からは微妙。
第三話は人間の退化過程には納得だったが、単純に描写が気持悪い。第四話、第五話は設定への理解が追い付かなかった。後香不動産の存在の解釈が上手く出来なかったのが致命的。
それでもツンケンしてばかりのアレイが色々と経験して丸くなっていくのと、サイボーグのユキオの行動が段々と人間臭くなっていく変化にはほっこりするところがあり、キャラクター小説的には悪くない読後感。
不思議な世界観のSFだった。SFとしてはゆるゆるでかなり癖のある作品なので、好き嫌いがはっきり分かれそう。