いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「狼と香辛料 XXIV Spring Log VII」支倉凍砂(電撃文庫)

世界を変える大冒険へと向かった娘のミューリを追って、旅を続ける賢狼ホロと元行商人のロレンス。
だが借金で悩むサロニアの窮地を救ったロレンスの活躍が、思わぬ余波を生む。「貴重な森が失われる」と、森林監督官から詰め寄られてしまうのだった。
トーネブルクの未来を思い森を切り開く決断をした領主と、先祖代々の森を守りたい領民。その両者を気遣うホロを悲しませないためにも、ロレンスは皆が納得する妙案を練ることになる。
しかしそんな中、木材取引の相手、港町カーランの背後にはある女商人の影があって……。
長編書き下ろしで贈る、賢狼と元行商人の幸せであり続ける物語、第7弾!


借金と異端疑惑の払拭に守りたい森を切るしかない領主、難民受け入れの為にも町を大きくしたい新興の港町、近くに似た役割の町は出来てほしくない大きな港町。三陣営の思惑と問題事が絡み合い身動きが取れなくなったところに、現れた憐れな羊が一頭。三すくみ状態の真っ只中に立たされたロレンスの苦悩を描くSpring Log7巻。Spring Logとしては初の長編。

それはもう見事な雁字搦めで(苦笑)
切りたくない森を切る決断を迫られているトーネブルクの領主の問題は、自分のサロニアでの活躍の余波の木材不足が原因。しかも森が開かれれば、前回の活躍の報酬の麦畑に影響が出ることが必至の状態。領主を唆す新興の港町カーランに行ってみれば、かつてしのぎを削り結婚式にも参列してくれた商人エーブの姿が。どうやら彼女はコルやミューリの味方をしてくれているらしい。カーランの発展を良く思わないケルーベはかつて所属したローエン商業組合があり、お世話になったキーマンがいる。そして、コルとミューリの後始末の側面もある。
それぞれに縁もゆかりも大いにあり、誰もあくどいことはしていないから、どこも一人負け状態にはしたくない。しかし、どこかに損を被ってもらわないと話が前に進まない。あちらを立てればこちらが立たずな板挟みの中間管理職の辛さに、JRPGの悪いところ=たらい回しのおつかいクエストの冗長さを合わせたような、これまで軽い短編ばかりだったSpring Logには珍しい重苦しい話で読む手がなかなか進まなかった。反面、どうやって切り開くのか、解決方法への楽しみが募る展開でもあった。
で、その解決方法はロレンスとホロの持ち味を半分ずつ出し合ったような、程よく機転が利いていて程よく力技でいい塩梅。でもそれ以上にスカッとさせてくれたのが終章の271ページの挿絵。
キーマンの胡散臭い笑顔とそれを見るエーブの冷たい目がツボ。文章でも胡散臭いキーマンの演説とやれやれと言わんばかりのエーブとホロの反応ともピッタリでめっちゃ笑った。それまでの鬱憤を全て吹き飛ばしてくれた。キーマンさん良いキャラしてるわー。
次回、エーブに唆された二人は食道楽の旅へ?