春の霧雨が音もなく降り注ぐ北鎌倉。古書に纏わる特別な相談を請け負うビブリアに、新たな依頼人の姿があった。
ある古書店の跡取り息子の死により遺された約千冊の蔵書。高校生になる少年が相続するはずだった形見の本を、古書店の主でもある彼の祖父は、あろうことか全て売り払おうとしているという。
なぜ――不可解さを抱えながら、ビブリアも出店する即売会場で説得を試みる店主たち。そして、偶然依頼を耳にした店主の娘も、静かに謎へと近づいていく――。
『ビブリア古書堂の事件手帖』娘・扉子のシリーズ第三弾。デパートで三日間行われる藤沢古本市を舞台に、一人の男の蔵書を巡る物語。
今回は仕事で不在の母・栞子に頼まれた扉子がメインで謎解きをする、正真正銘扉子が主役の話。当事者の一人で高校の後輩になる少年が聞き役、要するに大輔のポディションとして一緒にいたこともあり、本編に近い形になっていたのが懐かしく嬉しいところ。
ただ、最後はいいところを父母に持っていかれてしまったり、印象としては祖母が強かったりで、まだまだ役不足な面も。まあ、最後のは後味苦めの結末を彼女に背負わせない親の愛かな。
ともかく、シリーズは続きそうなので扉子にはこれからの成長に期待したい。このまま成長すると俗世と離れてしまうような気がしないでもないが。
それより問題は祖母の方か。
元々、本に狂った人が度々出て来るシリーズで、しかも今回はメインの作品が奇書『ドグラ・マグラ』なのもあって、多分に狂気をはらんだ内容だった。そこにさらに悪い意味で花を添えていくのが祖母・智恵子。ちらっと出て来るだけで読者に不気味さを植え付けていくのに、今回はあちこちに顔を出しては意味深な言動を繰り返し、不安を煽ってくる。そしてラストは……。後味苦めな結末になったのは半分以上この人の所為だろう。エピローグには彼女による『ビブリア古書堂の事件手帖』構想まで。やめてください。あなたが書くと猟奇ホラーになってしまいます。
今回は後半にかけて祖母が全部を持っていってしまったので、次回はちゃんと最後まで扉子の話になっているといいなあ。そうい意味でも扉子の成長に期待。