いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「おいしい旅 初めて編」近藤史恵、坂木司、篠田真由美、図子慧、永嶋恵美、松尾由美、松村比呂美(角川文庫)

仕事に行き詰まり、勢いで列車に乗り終点まで……旅先では驚きの出会いが待っていた(「下田にいるか」)。福引きで旅行券を引き当て、台湾へひとり旅。現地で会った駐在員はどこか訳アリのようだが(「情熱のパイナップルケーキ」)。訪れたことのない場所、見たことのない景色、その土地ならではの絶品グルメ。さまざまな「初めて」の旅を描いた7編を収録。読めば必ず出かけたくなる、文庫オリジナルアンソロジー


『想い出編』と同時発売の食と旅をテーマにしたアンソロジー。どの話にも必ずコロナの影響が出て来る、旅がし難い“今”だからこその旅の短編集。

重い!
このタイトルで、帯に「出かけた先に絶品グルメが待っていた」なんてキャッチフレーズを付けられたら軽く読めて、旅の気分を味わえるアンソロジーを期待しちゃうじゃないですか。
それが仕事、人間関係、病気等々、重大な問題を抱えた登場人物たちばかりで、身につまされる話ばかり。
仕事の悩みや失敗を突発的な旅で癒す話(「下田にいるか」と「遠くの縁側」)なんてのは軽い方。あとは他人の修羅場に巻き込まれたり、詐欺×不倫+赤の他人との気まずい旅、祖母の憎悪と悲哀に触れる旅、北方領土やサハリン複雑な思いを抱えた老人ばかりのツアーに傷心旅行で参戦、家族に問題を抱えた人たちが集まった劇団との出会い……おう、もう。
それでなくてもすべての話でコロナが影を落としているというのに、これでは「旅はいいな」「ここに行ってみたいな」と思える要素がない。人の機微を味わうのは旅の醍醐味ではあるけれど、いくら何でもこれはヘビーだ。
辛うじて旅してみたくなったのは、初め塞ぎ込んでいた主人公が旅先では思い切り楽しんでいた「下田にいるか」だけ。惹かれたグルメは無し。そりゃそうだよね、本人たちが食を心底楽しめる状況にないのだから。
人の機微を味わう作品として面白くなかったわけではないけれど、初めての旅らしい高揚感・ワクワク感がほぼなく、楽しい気分にはなれなかった。