いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「おいしい旅 想い出編」秋川滝美、大崎梢、柴田よしき、新津きよみ、福田和代、光原百合、矢崎存美(角川文庫)

15年ぶりに再会した友人と訪れた京都。昔話に花を咲かせるが、みなそれぞれに事情を抱えていて……(「あの日の味は」)。亡くした夫との思い出を胸にひとり旅をしていた故郷・神戸で偶然出会った青年。一緒にスイーツ巡りをすることになるが(「幸福のレシピ」)。住んでいた街、懐かしい友人、大切な料理。温かな記憶をめぐる「想い出」の旅を描いた7作品を収録。優しい気持ちに満たされる、文庫オリジナルアンソロジー


『初めて編』と同時発売の食と旅をテーマにしたアンソロジー。どの話にも必ずコロナの影響が出て来る、旅がし難い“今”だからこその旅の短編集。

そうだよ、これだよ。
もう一冊の『初めて編』が重い話ばかりだったことと、こちらはさらに重くなりそうな『想い出編』ということで、身構えながら読んでしまったが、こちらは『おいしい旅』というタイトルで期待する通りの話が出てきて一安心。
そんな、期待通りの食い倒れ道中だったのは「幸福のレシピ」と「下戸の街・赤羽」。どちらもスイーツメインだったのは個人的には残念だったけど、純粋な食への感動、嫌な気分を食べて吹き飛ばす明るさ、思いがけぬ再会と『おいしい旅 想い出編』のタイトルに相応しい話だった。
食の面でのイチオシは「からくり時計のある町で」本場ドイツのビールとウインナーが本気で羨ましい。
他にも、仲良しだった三人の女性が、年を重ねて出来てしまった壁と久しぶりに会ったことで少し溶けた蟠りを、京都の情緒と共に味わえる「あの日の味は」。地方ラジオ局の局長とパーソナリティが駄弁ってるだけという変化球「旅の始まりは天ぷらそば」。そっちかよ!と思わずツッコまずにはいられない、どんでん返しが楽しめる「ゲストハウス」とバラエティー豊かなラインナップ。そして締めは、80過ぎのお婆さんが数十年ぶりの故郷横浜で沢山の思い出に触れる「横浜アラモード」でしっとりと。
話の種類も色の種類もバラエティーに富んでいて、しんみりすることはあっても沈んだ気持ちで読み終わる話はなく、アンソロジーとして楽しい一冊だった。