いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「凜として弓を引く 青雲篇」碧野圭(講談社文庫)

弓道をはじめて一年。初段を取り、高校二年生になった矢口楓は、後輩の高坂賢人にのせられ、廃部になった弓道部を復活させることに。しかし、校内に弓道場もなければ、入部希望者もなかなか集まらない。意図せず部長になり不安にかられる楓に、次々と難題が降りかかる。弓道女子の奮闘を描く傑作青春小説!


高校になって弓道に出会った少女の青春小説、第二弾。

二巻になって物語の毛色がガラッと変わって驚いた。
前巻は弓道の初心者入門としての色が濃く、また周りがおばちゃんから外国人まで多種多様な大人たちに囲まれて、年代や国籍を超えた異文化コミュニケーションの話だったので、楓が高校生だと感じることはほとんどなかった。それが今回は、二年生になった楓が廃部になった弓道部を復活させるために奔走する高校を舞台にした物語に。
成り行きで部長になってしまった楓が癖の強い部員たちの調整役に右往左往する、直情的な若者だからこその人間関係の難しさや、初心者を指導する立場になって、人に教えることの難しさや自分の足りないところを知る、部活ものならではの成長のエピソードが語られていて、一気に“高校生の青春物語”らしくなった。
それでも真面目で素直な良い面と、押しが弱くて流されやすい悪い面、前巻で見えた楓の長所短所がよく出ていて、彼女の成長の物語の側面はちゃんとあった。というか、これがなかったらシリーズものとは認識できなかったかも。それにしても楓はいい子だ。衝突ばかりの部員たちだったのに、それぞれの心の内や考え方を知ることで、良いところを見つけて仲良くなっていく彼女の偏見のなさは、何かと色眼鏡で見がちな大人には眩しい。
また、十数年前の弓道部廃部の真相を追う、若干のミステリ要素があったのが個人的には嬉しかったところ。廃部の理由が分かり復活のピースが揃うラストは感動もの。
ただ、基礎練習しか出来ずに競技も試験もなかったから仕方がない面もあるが、弓道の影が薄くなってしまった。競技中の緊張感や道場の空気感が好きだったので、それらをほとんど感じられなかったのは残念だ。
次があれば初の大会出場になるのかな? 濃くなった「青春」そのままに、薄くなってしまった「弓道」を感じられる話になってくれれば嬉しいが。