いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「さよならの言い方なんて知らない。7」河野裕(新潮文庫nex)

最強が愛したただ一人の、女性。ウラル。彼女の存在は特別だった。あるいは一般的に、彼女の外見は地味に見えるかもしれない。悲しみも、怒りも、他の感情も、彼女が外に見せることは少ない。だが、それでも。架見崎の最強、月生亘輝にとって彼女だけが、美しかった――。冬間美咲に追い詰められた香屋歩は、起死回生の構想を実行に移す。それは、月生と「七月の架見崎」に関わる秘策だった。償いの青春劇、第7弾。


人が「生きる」こと。最もポピュラーで最も難しい普遍的な永遠のテーマに、ストレートに切り込み始めた第7巻。主人公の香屋の目標やトーマの存在で薄々は気付いていたけれど、最終的なテーマは「生きること」になるんだろうな。
それを象徴していたのがウォーターによる兵糧攻め
架見崎のルールと条件を知ったら真っ先に思いつきそうな戦略を7巻にして出してきたのは、それが人が生きることの根幹に関わることだから、なのかもしれない。
ただ、架見崎の人間が全てデータで一種の思考実験のような場だと知ってしまった後なので、飢餓による苛立ちと疑心暗鬼からの平和の国の内部崩壊は、ごく当たり前の予想された結果が出てくただけ、という感想しか出てこないのが正直なところ。生身だと思っていた頃にこの戦況になっていたら、誰かに感情移入してもっと心を痛めていたしれないが。
一方で、データだと分かっていてもそれを覆す恐怖と嫌悪感を与えてきたのが、食糧不足の局面を覆す香屋の一手。
生きる意味を悩む月生に対して、よくここまで出来るなと思う残酷な仕打ちに言葉も出ない。心の弱い人なら普通に自死を選んでいそうだ。
アポリアによって自殺者が増えたとされる近未来の世界で、周りに生きることに悩む登場人物が何人もいる中で、「生きる」ことに関して疑問すら持たない香屋は、人とは別の得体のしれない生き物に思えてくる。率直に怖い。
エンタメ作品としては全く映えない兵糧攻めに、化け物さを増す香屋の振る舞い。とても面白いとは言えないけれど、衝撃の内容だったのは確か。
この物語の根幹のアニメ作品『ウォーター&ビスケットの冒険』に動きが? 八月の架見崎への影響は?なところで次回へ。なんだかどこに着地してもバッドエンドな気がしてきたが、この若者たちに救いはあるのか?