いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「栞と嘘の季節」米澤穂信(集英社)

猛毒の栞をめぐる、幾重もの嘘。
高校で図書委員をつとめる堀川次郎と松倉詩門。
ふたりは図書室の返却本の中に、トリカブト花の栞を見つける。校舎裏でトリカブトが栽培されているのも発見すし、そしてついには被害者が……。
「その栞は自分のものだ」と嘘をついて近づいてきた女子・瀬野とともに、ふたりは真相を追う。
殺意の奥にある思いが心を揺さぶる、青春ミステリ長編。


図書委員の高校生男子二人が持ち前の人脈と洞察力、記憶力と正義感をそれぞれに発揮して謎に立ち向かう『本と鍵の季節』の続編。
おかえり松倉くん。あのラストでは帰ってこないものと思っていたが。で、これはシリーズ化したと思っていいのだろうか。そうなら嬉しい。
シリーズ二作目となる今回は、図書室の返却本に挿まれていた忘れ物の押し花の栞を発端に、学校中を巻き込むトリカブト毒物事件に発展する学園ミステリ。
教師への毒殺未遂事件が発生し、学内中が疑心暗鬼に囚われて登校拒否や体調不良者が多発する、高校生が主役の話とは思えないほどシリアスで重苦しい空気。そんな軽く読める雰囲気ではなかったのだが、それを上回る面白さで読む手が止まらなかった。
他人を傷つけない為の小さな嘘、自分を飾る小さな嘘、自分または誰かを守る部分的な隠し事、自分の責任をぼかすための言葉の綾。そんな誰でもする小さな嘘や言葉の装飾など、むしろ高校生らしさや人間味を感じるそれらが少しずつ積み重なって真相の解明を遠くし、難しくしていく。その謎の広げ方、隠し方が巧み感心しきり。結局、ページ数もあって途中で止めるつもりだったのに、一日に一気に読んでしまった。
そんな風に夢中になったおかげで、後味苦めをもろに食らうことになったのだが。
途中から高校生の心の闇に切り込んでいて、味が良くなりはしないだろうとは予想は出来ていたのだが、まさかこんなにサイコなラストになるとは。弱者の秘め事をそうでないものがオモチャにするとびっきりの後味の悪さ。今回、堀川松倉両名と行動を共にし、花を添えてくれた瀬野さんも思いっきり巻き込まれているのが遣る瀬無い。
彼女は帰ってきてくれるだろうか。松倉が帰って来たんだから、きっと。シリーズ化と共に瀬野さんのレギュラー化も願っています。